BS受けの何か-1

突き抜けるような衝動の後、続くのはただ気だるい疲労感と身体の芯を苛む熱。
急速に重さを増す腕をシーツに投げ出して、なぜこうなったのだろうと取りとめも無く思う。
なぜ。
そして、いつまで続くのだろう、と。




―――製造? じゃあ、いつか俺の武器を作ってくれよ。




明るく笑って、彼はそう言った。
たまたま出会っただけの、そのまま通り過ぎてしまっても構わないような商人の俺に。
そして本当に、ここまで、彼は連れてきてくれた。
どこへ行くのにも俺を引っ張り出して、死に戻る時まで二人一緒で。
露店しなきゃって時には、暇そうにして柔軟体操していたり、結局は居眠りしていたり。
絶対に俺との公平が切れないように調整もしていた。
初めて打った名刺ナイフも、何度も折った属性武器も。
一つ一つがこいつと過ごしてきた時間の証だった。




   いつからだろう―――




俺を連れているせいで臨時にも行けなくて、ほとんど固定PTで行動していたから、お互い女っ気なんか微塵も無くて。
だから……。
こっそり処理しているのだろう、と。
俺もそうだったし。
ただ、そう。
タイミングが悪かったんだ。
まだ帰らないと思っていた俺も馬鹿だった。
つまり、目撃された訳だ。
あのばつの悪さは、どう表現すれば良いものか。
その時は、なんだかお互いであやまり倒した気がする。
その日はそのままで……。
ああ、本当に、いつだったろう……。
あいつが「手伝ってやろうか?」なんて、ふざけた事を言い出したのは。




体温が離れて、また近づく。
事の後はいつも、腕一本だって動かす気にもなれないから。
後処理だのなんだのは勝手にやってくれればいい。
恋人同士のような睦言も何も無い。甘い語らいも、優しいキスも。
欲求をぶつけ合って、終わるだけ。
自慰行為の延長でしかない。
ただ、それだけ。


いつまで、こんな関係が続くんだろう。
すぐに眠ってしまえればいいのに、寝付けないこんな日はたちが悪い。
無駄なことばかり考えてしまう。


忌避した事があっただろうか?
本気で、拒絶した事があっただろうか?
戦う術の無い俺を、ここまで引き上げてくれている。
その事に引け目を感じているのは事実だ。
それと引き換えの行為ならば、それも仕方が無い、と。
俺は、納得しているのか?
あいつの指が俺に触れる事に、女の代わりを務める事に。




   いつまで―――




「もう、いいんじゃ…ね?」
「……あ?」
背中の向こうから、多少くぐもった声が返る。
半分ばかり寝ていたようだ。
「もう属性武器も全種揃ったんだし……」
折りに折った星二つ入れた最後の属性武器も、7本目にして先日やっと完成したのだ。
「何の話だよ」
身じろぎする気配と一緒に、肩にかかっていた毛布がずれる。
背中越しにこちらを向いたのが、なんとなくわかった。
「だから、もういいんじゃないか?」
「だから何が?」
今頃になって眠気がきたらしい、頭がぼんやりしてきた。
言いたい事がなんだったかを、一瞬見失う。
……ああ、そうだった。
「もう、必要ないだろ?」
「だから何の話だっつってんだろ!?」
肩をつかんだ手がそのまま俺をシーツに押し付ける。
見上げれば、月明かりだけの薄暗がりの中で、俺を見下ろす不機嫌な顔。
ありがたい事に、今ので眠気が飛んだ。
どうやら俺も十分に半寝ぼけだったらしい。
確かに言葉足らずだ、と、つい苦笑いが浮かぶ。
「お前、いい加減にそろそろ特化武器そろえた方が良いんじゃないか?」
「え? ……ああ、まぁなぁ」
「そうしたら別に、属性武器を過剰精錬する必要も無いだろう?」
「あー、うん。そりゃあな」
唐突に普通の話題になって、俺を見下ろす顔が戸惑いの色に染まる。
「で、属性武器も星二つ入ってるのが4種類揃ってるよな?」
「うん」
「だからもう、これ以上俺のこと引っ張り上げる必要も無いだろう?」
「……んだよ、それ」
見上げる表情が戸惑いから不機嫌へ、瞬時に戻った。
だって、そうだろう?
これから先なんて、二人分背負って歩くには重過ぎる。
「俺も作りたい物は作れるようになったし、お前にしてやれる事も、もう無いし」
「だから、何? ……別れたいとか、そーゆー話?」
「………」
相方なんていう、対等な間柄じゃない。
もちろん、恋人なんて関係でもない。
何かが一方的で、不平等で。
俺達はそもそも最初から、歪んでたんだ。
「いいじゃないか、身軽になったらお前、臨時とか自由に行けるし。彼女とかできれば、俺で済ませなくたってよくなくなる……」
「……っんだよ、それっ」
ぎしり、と、肩をつかんでいた手に力が入る。
「だいたい、作りたい物作れるようになったって、あんなに失敗しまくっててそれで満足なのかよ、お前!?」
「……それでも、お前にはもう十分だろ」
指が、肩に食い込む。
力が抜ける気配が無くて、俺は顔をしかめた。
「ふざけるな! 武器が出来上がったらお前捨てるような男だって言うのか!? 俺が!!」
「だってもういらないだろ! あれ以上強い武器なら特化揃えるしか無い、俺引っ張っていく理由なんてもう無いんだよ!」
「だから…っ」
「だからもう俺の事なんか終わらせていいんだよ! もう……、嫌だ……」
お前に、ただぶら下がっているだけなのも。
心も無く、身体をつなげるだけの行為も。
「………」
肩から指が外れる。
逃げ場を塞ぐように顔の両脇に手が置かれ、ほんの少し顔が近づいた気がした。
「嫌って何? ……お前、俺に嫌々やられてたっての?」
「好きで、あんな……されてたと思うのかよ」
「ふざけんなよっ、抵抗もしないで! 今頃んなって嫌って何だよ! そういうの平気なのかと思って俺はっ」
「俺だって男なんだよ!!」
叫んだ声は、自分でも驚くほど大きかった。
微かに息を呑む気配がする。
顔はもう、直視できなかった。
さ迷うように視線を逃す。
俺のために戦って、俺を責め苛んで、そして一度も、俺を抱きしめた事の無い腕の向こうに。
「じゃあ、何だよ。……ずっと我慢して嫌々やられてた、って? 何? もしかして引っ張り上げてもらってるから、代わりに俺に足広げてたって言うのかよ!?」
「だって俺にはお前にしてやれる事なんてなにも無いんだ!!」
武器は作れても、その材料はすべてこいつが集めてきたものだ。
足りない物を買う金だって、元々こいつが狩りで稼いだ金だ。
「だから俺にやらせてあげてましたって!?」
「他に、……こんな事だって、したいって言われたらするしかねぇだろ!!」
「ふざけ……っ」
思わず顔を見上げて、目が合ったその顔は怒りの表情から不意に当惑の顔に変わった。
「ちょっと、……待てよ」
「………」
「お前、……なんで」
「なん……だよ」
視界の端で腕が動いて、そっと頬に手が触れた。
「!?」
「なんで、泣きそうっていうか、そんな寂しそうな顔してんだよ……」
「な……!?」
「嫌なんだろ? 俺に触られるの」
「さ…わ……」


   触られるのが、嫌だって?


「嫌なら、跳ね除けろよ。今までだって、俺。嫌だって言われたら、しなかった……」


   触れられるたびに、嫌悪感は湧いたか?
   今頬に触れるこの手を、跳ね除けたいと思うか?
   嫌なのは、何だった?


「お前、抵抗しないし、すんなりやらせてくれるし。……だから、そういうの平気なのかなって」


   だって俺はお前に何も返せないから。
   何もできないのに、お前を拒絶したら……。


「やった後も何も変わらないし、態度とかなんか、……特別になる事も無いし。……だから、それだけでも良いか、って」


   お前に、……捨てられたり……したら。


「なんとも思われてないなら、それ許してくれてるだけでも……、身体だけでも、って……。」
覗き込む目から視線が外せない。
暗くて、月明かりだけじゃ暗すぎて。
もっとしっかり見ようとして、集中して、考えがまとまらない。
「なぁ、おい。なんで、……そんな顔で泣くんだよ」


   さあ、考えろよ、俺。
   何が嫌だったのか。
   今流れている涙の理由は何なのか。


「嫌……だ……」
「………」
悲しそうに翳った顔も、あふれ出す涙ですぐに見えなくなった。
「身体だけ…じゃ、……い…やだ」
頬に触れていた手が首の後ろに回る。
「なん…も、思ってな…のに、……された…て、……そんなん、…嫌だ」
「馬鹿だな……。って、馬鹿なのは俺か……」
腕が、シーツと背中の間に滑り込んで。
「順番、すげぇ間違えた。……ごめんな」
初めて抱きしめてくれた腕は力強くて、温かかくて、苦しくなった。
「好きだよ。ずっと、一緒にいて欲しい」
俺は首にしがみついて、ただ泣いていた。




ずっと、好きだったんだと。
そんな事にすら気づかないで。
触れられる事にも、犯される事にも嫌悪は無かったというのに。
ただいつも付きまとう寂寥感だけが膨らんで、嫌だと思う気持ちだけに支配されて。
捨てられる恐怖から逃げようと、自分から離れようとしていた。
ああ、馬鹿だっていうのは正しいよ。
本当に俺は何もわかって無かった。
お前はいつだって俺に優しかったのに。




「お前さぁ、光るまで俺のこと引っ張り上げるって言ったよな?」
「うん。言ったし、転生しても引っ張り続けてやるとも言ったな」
俺は枕に突っ伏して盛大にため息を吐いた。
「言った初日から動けなくさせてどーすんだ」
「いや、ごめん。……なんつーかさ、すげぇかわいくて、……つい」
てへへ、とか笑ってごまかしてる顔を横目に見て、俺はまたため息を吐いた。
俺が泣き止むまで抱きしめてくれていて、何度も名前を呼んで、何度もキスをしてくれて。
好きだとか愛してるとか言われるたびに、俺はまた泣いて。
好きだと言い返して、キスを返して。
なだめるように背中を撫でていた手が別の動きをし始めて。
自分でも信じられないくらい感じて、気持ち一つでこんなに違うものかと驚いた。
あんなに幸せな気持ちで抱かれたのは初めてだったから、それはそれで良いんだけど。
結局、何回やったかわからない。
昼過ぎまで寝たというのに、ものの見事に腕一本動かせないほどのだるさだ。
飛ばしすぎだ馬鹿野郎。
「ちくしょう、お前、俺の代わりに露店してこい」
「無茶言うな、できねーよ」
「チッ、なら捌き終わってないレア渡すからチャット売りでもしてこい」
「舌打ちしたよこの人! お前、相場以下で売るの許せるのかよ? 露店価格でチャット売りしたって売れるわけねーだろ!」
「……っ使えねー」
「ひでぇ!!」
八つ当たりもまあ、こんなところで良いだろう。
情けない顔をするのを見て、俺はとりあえず満足した。
「露店もチャット売りもしないなら、お前、今日はどうするんだ? 俺、狩場についてってもいつもの10倍は足手まといになるから大人しく寝てるつもりだけど」
「露店はしないんじゃなくてできねーんだよ。今日は、そうだな。お前の顔見てすごすってのも良いな」
「……馬鹿かお前」
「なんかもー、今日はすげぇ幸せだから馬鹿でもいいよ」
そう言って本当に幸せそうにニコニコと笑う。
その顔は確かに馬鹿っぽい。
ふと俺は、製造に必要な材料のリストを脳内に思い浮かべた。
「今度さ、鋼鉄集めに行かないか? ……鉄でも良いけど」
アインブロックのBSだか料理人だかわからない変な人が、近場の収集品と石炭を交換してくれるので、鉄さえあれば比較的容易に鋼鉄の数は揃うのだ。
そしてその近場の狩場は、俺がひたすらカートを振り回しているだけでもなんとかならない事も無い、というありがたさ。
「いい…けど。……俺の武器はもう揃ってるし、何作るんだ? あ、やっと露店で売る気になったか?」
「いや、そうじゃなくて」
なんとなく気後れして、自分で作った武器を露店に並べられないでいる。
というか、失敗が多すぎてあまり安い値段で並べるのも材料を調達してくれるこいつに申し訳なく、いまだに売るための武器を作ったことが無い。
まあ、今それはどうでもいい。
「今のうちにソードメイスか斧か決めて作っておいて、転生したら戦闘型になろうかなー、って」
「え!?」
イスから飛び上がるほど驚くのも失礼じゃないか、お前?
「だって大変じゃないか。今までだってけっこう大変だったのに、転生しても製造一直線ってどんだけ大変か……」
「だからってお前が戦闘型になったら俺の存在意義は!?」
「……お…前の存在意義は、それだけなのか」
あまりにもあきれて、すぐに言葉が出なかった。
なんとなく呆然としているこいつと、見つめあう事数秒。
「………」
「………」
しばらく見つめあった後、すとんとイスに座りなおした。
「え…と、それだけじゃないなら、嬉しい……けど」
それだけだったら、まあ、他の奴だって良い訳だし……。
「でもお前が一人でなんでも出来るようになったら、その、……す」
照れたような顔をして、頭をかきながらそっぽを向く。
「す?」
「捨てられたり、しない?」
「ぶ」
俺は思い切り吹いて、その反動で腰に鈍痛が走った。
「ぐ…あ、……馬鹿だ…お前。そうとう…馬鹿だ」
「笑ってんのか苦しんでんのかどっちだよ!?」
俺は笑いの衝動とギシギシ言う痛みに息を整えるのに必死だった。
ああ、馬鹿だ。俺も馬鹿だけどこいつも馬鹿だ。
「俺は、一緒に戦えたら嬉しいけど。嫌か?」
「……想像した事も無いけど、……悪くない、かな」
「俺はずっと思ってた、一緒に戦えたら良いのに、って」
「……そ…か」
ちょっと嬉しそうに微笑む顔が、可愛いとか、思ってしまった。
俺、こいつの笑顔が好きだったんだよな……。
「戦闘型になったらがんばって物凄いマッチョになってやる」
「ちょ」
「そうしたらする方もやってみたいな」
「はい?」
「お前もいっぺん味わえ、この鈍い痛みと延々と続くだるさ」
「えっ、ちょっと、それは!?」
「意外と可愛いんじゃないかと思うんだよなー」
「待て! それはちょっと待て!!」
焦って身を乗り出すのを、手招きしてさらに近づかせる。
手の届く距離になって、俺は頬に手を伸ばした。
「だからさ、今のうちに可愛がっておいて」
「いや、この先も可愛がっておきたいんだけど……」
頬から首の後ろに手を回して、軽く抱き寄せる。
近づく顔に目を伏せて、自然と口付けを交わした。
「……俺、お前の武器を大陸中に流布するのが野望だったんだけど」
「あはは、それも良いな。今生の目標にしようか」
「いや、俺、来世でもこの関係がいいです」
「うーん、どうしようかな」
「……ちぇ」
見つめる瞳に映る俺の顔が、嬉しそうに笑っていて。
不機嫌そうなこいつの顔がおかしくて。
なんて幸せなんだろう、と、唐突に思った。
「大好きだよ」
脈絡の無い俺の言葉に困ったような顔で失笑して、もう一度、優しく唇が触れた。
俺を包む腕が嬉しくて。
その暖かさと甘い口付けに、酔ったみたいに頭がくらくらした。




この腕はもう俺を苦しめたりしないから。
俺に向かって広げられたその中に、ただ飛び込めば良い。
きっとそのまま、行けるとも思わなかった場所まで、連れて行ってくれるだろう。

2008.5.20

あとがき

結局、攻めの人の職業は決まりませんでした・・・。
属性武器が必要で露店スキルが無いとなると、だいぶ選択肢は狭まると思うんですが。
(露店切って所持重量増加とかメマー完備しているケミとかBSとかいたら漢らしくて良いとも思いますがw
殴りプリだとARでお役に立ててしまうのでなんか違う気もする・・・。
殴りWIZとか殴りハンタじゃそれだけでネタになってしまうので、やはり除外で・・・。
剣士系かシーフ系ですかねぇ?
あとすいません、外見も決めてないのでお好みで妄想していただけると嬉しいですorz


*****


以上、あぷろだに投稿した内容です。
年単位でご無沙汰していたので、何となく無記名で投稿してみました。
というかこの時期「ANGELIA」のトナミさんが名前を変えて投下していたので、真似してみたくなったんですよね。
ものの見事に誰にも気がつかれませんでした。はっはっは(´ω`*)
むとさんなんかコメントも書いてくれてたのにー(笑)
正体がばれないようにと思って、自分で決めていたルールを少し破ったりもしています(カタカナ語は使わない、とか
投稿時のhtmlの書式から変えていたので、サイト掲載物と比較されてもばれなかったとは思いますが(笑)

そもそもこれを書いたきっかけもトナミさんでした。
moacaのWSを担当してから改めてBS萌えが再熱していたところに、トナミさんが「夕日の色」を書き始め、そこの製造BSさんにも萌え上がり。
もうBSをどうにかしてやりたくてたまらなくなって、一気に書き上げた記憶があります。
書き上げてしばらくたってから気が付いたんですが。
これ、BS×プリの1作目とほとんど同じ内容なんですよね。
むしろただのバージョン違い。
両想いなのに気が付いていない片想い同士の気持ちが通じ合う瞬間、とか、ほんとに好きなんだなと思いました・・・。
一番書きたかったのは前半だけなんですが、良い終わらせ方が浮かばなくてダラダラ書いていたら無駄に長く;

投下して一ヶ月ちょっとたったころ、あぷろだでログ消失事故がありました。
初投稿みたいな振りして書き込んでいたので、ものっ凄いほっとしてましたすいません;
いやもう、投稿時の書き込みがのた打ち回るほど恥ずかしくて後悔しっぱなしで;
あれ消えて良かったと思ってごめんなさいごめんなさいいいい;;;;

2009.2.1追記

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