BS受けの何か-2

女の子に間違えるほど可愛いなんて事も無くて。
男だってのが気にならないほどの美人さんなんてはずも無くて。
別に普通の、……やんちゃなガキっぽい雰囲気は残ってるけども、容姿だけ取ったら普通の男だ。
眉毛は凛々しいし、口は基本への字だし。
身だしなみとかもそんなに気を使わないから、頭はいつもぼさぼさだし。
加えて口は悪いし。
ああ、あごは細いかも。
あと俺よりも少し華奢?
それぐらいで。
こいつのどこが好きなのかと問われると、自分でも説明に困る。
それでも、いつか俺がいらなくなって。
いつかこいつが他の誰かのものになったら。
ふとそう考えた時に襲われた恐怖は、自分自身を納得させる必要もないほどに、こいつに恋している事を俺に自覚させた。



「うんじゃ、晩飯前には帰るから」
「おう、気ぃつけてな」
出て行こうとする俺と一緒に、同居人も出かける仕度を終わらせる。
「今日も露店か?」
「あー、うん。……ああ、ちょっと狩り行ってるかも」
「へ?」
珍しい事もあるものだ、と思ってつい間抜けな声が出た。
まったくソロ狩りしない訳でも無いが、こいつは純製造型なのだ。
赤字を嫌えばものっすごい初級狩場くらいでしかソロはできない。
赤字覚悟の散財狩りしたってどこまで行けるものか……。
俺の顔を見て何を考えているのかわかったらしく、同居人は苦笑いを浮かべた。
「コンバーターの材料がさぁ、まとまった数あると結構良い金額になるんだよ」
「あ、……ああー」
納得した。
「ホルンとかスタイナーなら俺でもどうにかできるしさ」
「集めすぎて撃沈とかすんなよー」
「てめぇじゃあるめぇし」
そう言って笑いながら部屋を出る。
確かに、ある程度まとめてから倒す方が効率が良いので、俺がよく死線をさまよっているのは事実だが……。
俺が扉にカギをかけるのを待ってから「じゃあまた後で、がんばってなー」と、奴は元気に出かけていった。
金勘定の類は全部任せているとはいえ、勤勉な事だ。
それはともかく、なんと言うか、うん。
仕事柄、友人知人は俺の方が圧倒的に多い。
向こうが露店中にどんな人間と知り合って交流を広げているかは知らないが。
たぶん、どう考えても俺の方が友好範囲は広い。
同僚の中には女の子も当然いる訳で。
だから、なんだ……。
ちょっとくらい、やきもちの一つも焼いてくれねーかな、なんてのは。
我侭かね……。



仕事っていうのはまぁ、市街地の見回りとかそういうもので。
冒険者登録をしているという事は、街の外の魔物を討伐して歩いている事と同義、って感じで瑣末な事は色々免除してもらえるのだが。
それでも騎士団に所属している以上はお役目って物がある。
それが定期的に回ってくる巡回パトロールで、こればかりはどんなに面倒でも無視するわけにはいかない。
ささやかなれど給料を貰っている以上は働かなければ。
やる事といえば街中を見回ったり、一応城壁の外も一回りしたり。
テロがあった時にはその後始末とかくらいか。
はっきり言って、テロの鎮圧は我が騎士団が出張るよりも、街に待機している猛者どもが片付ける方が早い。
駆けつけたらもう終わってるとかよくあるある……。
いつもどうもありがとう、廃な人たち。
一致団結して蜂起したら国一個くらい落とせるんじゃねーかとよく思うよ。
「じゃあ、火鎧の貯金か何か?」
「だと思う。西兄貴じゃたいした金になんねーしなぁ」
騎士団員御用達の安くて早くてそこそこ美味い料理を出す定食屋から出て、俺と巡回のコンビを組むもう一人はペコペコにまたがった。
見回りは基本的に二人一組で行う。
俺が今組んでいる相手は、冒険者の格で言ったら向こうが全然上だけども、小柄で活発で魅力的な赤毛のフトモモだった。
ペコペコに乗れば視線はそう変わらない高さになるが、地面に降り立つと俺よりも頭一つ分くらい小さくて、可愛いんだこれが。
こんな女性が割りと身近にいながら、どうして男に走ったのか自分でもよくわからない……。
彼女には製造BSを引っ張っている事も、同居している事も話してある。
さばさばした性格なので話しやすいんだが、たぶんそのせいで気の合う友達以上の感覚にならなかったんじゃないかとも思う。
さすがにそういう関係にまでなってるとか、こんな女の子と一日一緒にいるのにやきもちも焼いてくんねーとか、そんな話はできないが。
「盾は二人分揃ったから、次は鎧かなぁ、って話はしてる」
「武器はその後?」
「んー、持ち替えが面倒だけど、なんとかなってるしなぁ」
巡回を再開させつつ、話を続ける。
大型特化を作るつもりならミノc安く売ってあげるわよー、とか笑いながら言ってる彼女は、俺と違って両手剣で戦うタイプ。
ミノタウロスのハンマーフォールを避けるのが楽しいとかで、いまだにピラミッドに狩りに行っているという。
どんだけカードを量産しているのか、一度聞いてみたらにっこり笑って流された。
まあ、売って金にするんじゃなくて、ほとんど彼女のギルド仲間に流しているようだが。
「過剰パイクが安く売ってたら考えてみるよ」
「……ん、パイク、……あれ?」
「……なに?」
笑いながら答えた俺に、彼女が怪訝な声を上げる。
何かあったのかとその視線の先をうかがうが、特に何事も無く平和な街並みが広がっていた。
「ああ、ごめんごめん。……ホルンとかスタイナーって事はゲフェンの方かな?」
「……じゃないのかな? あっちのが数がいそうだし」
どうやら何か気にかかる事を目撃した訳でもないらしい。
くだんのモンスターはプロンテラ近くでも見かけない事は無いが、山の方がより多く生息している。
俺もあいつと出会う前はソロで昆虫採集よろしく狩りまくったものだ。
当時コンバーターとかの技術が確立されていれば、あの収集品も一財産になっただろうに……。
「あーそっか、そうだよねー」
「……なんだよ」
「ん、……いい友達だね」
「……意味がわからん」
なぜか一人で納得している彼女は、にこにこと笑っていた。



それからは特に滞りもなく。
倉庫前でポーションを作ってるケミがうるさいだのと文句を言って突っかかっている奴はいたが、露店商人からそんな苦情が出るならわかるが、お前は一日中倉庫前に張り付いているのかと問いただして黙らせた。
勢い良く失敗すると瓶が割れたりして、その音を不快に感じる奴がいるのもわからんでもないが。
言いがかりにもほどがある。
とにかく揉め事にかち合ったのはそれ一件だけで、そろそろ引き上げようという時間になった。
本部に戻る前にもう一回り見回ろうと、道沿いに街を一周する。
傾いた日差しが長い影を街に落とす。
徐々に黄昏に染まってゆく視界の中に、俺はよく知った人物を見つけた。
あたり一面オレンジ色と黒に塗りつぶされて、本来の色を失っている世界で。
髪の色はまるで違って見えるけれど。
見知らぬ背の高いプリーストに、はにかむような笑顔を向けているのは。
間違いなく俺が良く知っているブラックスミスだった。



たぶん固まっていた。
一気に血の気も引いたから顔色も悪かったかもしれない。
何度か話しかけられた気がするが、どう答えたのかまるで覚えてないときた。
騎乗用のペコペコがよく訓練されている事に感謝しなければなるまい。
とにかく気が付いたら騎士団本部に戻っていて、夜警の連中への引継ぎも終わらせていた。
ルーティンワーク万歳。
かなり様子がおかしかったのだろう、巡回の相方に珍しく飲みに誘われた。
終わったらすぐに帰ると伝えていたはずなのに、今はすぐには帰りたくない気分になっている。
誘いはありがたかった。
別に、浮気した、なんて思ってる訳じゃない。
そんな奴じゃない事くらい、よくわかってる。
そんな事が問題な訳じゃなくて……。
「おつかれさまー」
「ああ、おつかれ……」
彼女が選んだのは軽めの果実酒。
考えるのが面倒になっていた俺は同じものを頼んだ。
初めて飲む酒だったが、酸味が爽やかで悪くなかった。
……気分的には、なんかもっときっついの頼んだ方が良かったのかもしれないが。
今の気分で飲んだら確実に悪酔いするだろうから、これはこれで良かったのかもしれない。
「同居人さんてさ、もう何か作れるようになってるよね? みんなに宣伝とかしないの?」
「あー、なんか。……失敗多いから売るのまで作るのが怖いとかで」
当然ながらランカーである訳もなく。
巷の露店に並んでいる武器より見劣りするのも、売りに出さない理由なのかもしれなかった。
とにかく今のところは、バキバキ折りながら俺の4色パイクを作っただけにとどまっている。
星二つ入り、支援無しにしても折りすぎな気がしないでもない。
いいかげん、結構なレベルだというのに……。
ああ、あと自分用の属性チェインも作っていたか。
ソドメ欲しいとか呻きながら。
鋼鉄の数があの半分でよけりゃなー……。
「でも知り合いに頼まれたって言ったら作ってくれるかも、何か欲しいのあったら頼んでみようか?」
「あー、あたし銘が気に入ってる人がいて。その人ので全部揃えちゃったんだよねー」
残念、と、彼女は申し訳無さそうに笑って言った。
「銘がね、未来って意味なの。ちょっと良いでしょ?」
「へぇ」
そう言いながら、見回り時に持ち歩いている中型特化とは別の、もしもの場合の超強いクレイモアを見せてくれた。
星が三つ入っているだけに恐ろしい数を折ったらしく、折るごとに涙目になっていくのを無理やり作らせたそうな。
鬼か。
実用性はともかく、彼女にとってはお守りのような物なのだそうだ。
うん、どうか、大事にしてやってくれ……。
銘を見せてもらい、読み方を教わる。
「なんか、うちの同居人と響きが似た感じだなぁ。……あいつ、ヴァンクールって言うんだけど」
「ほんとだ、ちょっと似てるかも。やっぱり銘用の名前で冒険者登録してて、意味があったりするのかな?」
「かもなー」
どことなく外国の響きがある。外国語だとしたら、たとえ意味があっても俺にはわからない。
超強いクレイモアの作り主に会う機会があったら、ヴァンクールの意味を聞いておこうと彼女は言った。
俺が直接本人に聞くとは思っていないようだ。
まあ、たぶんそんな事は忘れて聞かないんじゃないかと思うが……。
「でもがんばったよね、二人だけでここまで来るの大変だったでしょ?」
「うん、まぁ……」
大変だと思ったらその場で立ち止まってしまいそうで、あまり考えた事は無い。
どっちかっていうと……。
「一人じゃないぶん、精神衛生面で助けられてたかなー」
「あー、わかるわかる」
力いっぱい頷く彼女は、自らマスターを勤めるギルドを持っていながら、人生の7割はソロだと言う。
お互いソロでオーラまで突っ走れる職業なだけに、俺の気持ちは説明しなくてもわかってもらえるようだ。
俺の場合、少しでも効率を上げるために、ちょっと上の狩場にも行けるように、公平が切れない範囲でたまにソロで狩って鍛えていた。
一人で狩る味気なさは、相方なにそれ美味しいの? と言う連中には及ばないがそれなりにわかっているつもりだ。
だから俺にとっては、戦力にならないとか、そんな事はどうでもいい。
だから……。
「そろそろきつい、かな?」
「ん……、そうだなぁ……」
あまり、考えたことも無い。
どうにかなると思って今までやってきた。
きっとこの先もどうにでもなる、とか思っている。
でもたぶん、そんな能天気に思っていたのは俺だけだったんだろう。
「知り合いのギルドがさ、商人多くて製造の人もいるから、聞いてみようか?」
「………」
つまり、あいつをそのギルドに加入させて、俺だけで引き上げるんじゃなくてギルドぐるみで手伝ってもらっては? と言うことだろう。
「ああ、……考えておく」
煮え切らない俺の返事に、彼女が微かに顔を曇らせる。
わかってるんだ。
恐ろしく子供っぽい、馬鹿げた独占欲だっていうのは。
それでも俺は、誰にもあいつを渡したくない。
「二人だけでがんばってきたから、色々思うところもあるかもしれないけどさ」
テーブルの向こうから、俺の顔を覗き込むように彼女は身を乗り出した。
「あんたが思いつめたら、きっと重くなっちゃうよ?」
「……まぁ、……ね」
誰にも渡したくない、俺だけのものにしていたい。
この気持ちを、どう整理していいかわからない。
自然、答えは歯切れの悪いものになった。
「本気で狙ってるかわからないけど、あんたのために狩りに行ってくれてるんだから」
「は?」
急に話がすっとんだ気がして、間抜けな声が出た。
俺のために狩り? 何が?
「ホルンとかスタイナー狩りに、たぶんゲフェンの方に行ったんだよね?」
「ああ、うん。たぶん」
「あっちの方だと、もれなくキャラメルも狩れるよね?」
「あー、いたなぁ……」
「パイクってどのモンスターがドロップするか知ってる?」
「……あ」
いや、しかし。
「パイク狙うならワームテールの方が!」
「うん、だからコンバーターの材料集めるついでにあわよくば、て感じなんじゃないかなぁ」
「………」
まあ、ついでに狙うなら、わからないでも無いが。
それにしたって。
「無駄が無いっていうか、逆に無駄って言うか……」
「実際どっちがメインかなんて、本人に聞かないとわかんないし。……と言う訳で今日はこれでお開きね」
そう言って残っていた酒を一気に飲み干すと、彼女はカンッと音を立ててグラスをテーブルに置いた。
「今日はおごってあげる。待っててくれてるんでしょ? 引き止めちゃってごめんね、早く帰ってあげなさい」
にっこりと、いい笑顔で言うと彼女は颯爽と酒場を後にした。
なんと言うか。
……友達でいてくれてありがとう。



たとえば本当に、俺のために狩りに行ってくれていたのだとしても。
すっきりとしない。
理由はわかってる。
別に、他の男と一緒にいたとか、そんな事は関係なくて。
……なくはないけども。
コンバーターの材料だとか、それだけじゃなく、製薬材料も集めればいい金額になる。
そしてそういう材料関係は、比較的楽な狩場でも集められる物が多い。
武器を作る事だけに特化しているブラックスミスでも、一人で狩れるだろう。
地道にがんばれば一財産にもなるかもしれない。
そして金があれば、雇えるのだ。
自分の代わりに戦ってくれる人間を。
今まで俺たちが貯めた金は、主に俺が狩って稼いだ物だ。
それをあいつは、自分個人の物だとは思っていない。
自分のために使う金が必要なら、自分で稼がないといけないとでも思ったんだろう。
そうして人を雇う。
考えてみれば当たり前の事で、今までそうしていなかったのが不思議なくらいだ。
製造型なら、手段としては当然思いつくものだろう。
今までしなかったからといって、これからもやらないとは限らない。
この先の道のりは、たぶん今まで以上にきついから。
自分に出来ることで少しでも、とか、きっと。
そんな風に考えてるんじゃないかってくらいは、俺にも想像できる。
でも、そんな手段が使えるなら。
俺は、必要なのか?



「遅ぇ」
ぐったりとした気分でドアを開けた俺を向かえたのは、同居人の不機嫌な顔だった。
「悪い、ちょっと飲みに誘われて……」
「あ、ずるい」
と、不満げに口を尖らせた。
ああ、うん。惚れた弱みだってのはわかってるが。
可愛い。
「飯も済ませた? そーゆー時は連絡くらい……、んに!?」
物も言わずに抱きしめたら変な音が出た。
だからそういうのが可愛いってのに……。
「んだよ、何かあったのか?」
「ん、ちょっと……」
さりげに背中に手を回してくれるのも嬉しい。
力いっぱい抱きしめていたら抗議の声が上がったが、気にしない。
やっぱり、嫌だ。
誰にもわたしたくないとか、俺だけのものにしていたいとか。
あまりにも子供じみた独占欲で、相手の人権無視もはなはだしくて。
馬鹿馬鹿しいと打ち消そうとしても、どうしてもその欲求は消えてくれない。
ずっと、あきらめていたから。
こいつはそれこそ、犯しても態度が変わらなかった奴だから。
きっと、俺の事なんかどうでもいいんだろうと。
そう思って。
だから。
やっと向かい合って抱きしめられるようになったこいつを、放したくない。
「苦しいって! ほんと、何かあったのかよ?」
「あの……さ」
「おう」
あー、すっげー、自分でバカバカしい……。
でも言わなきゃきっとわかんないだろうし、言わないでいたから今までしんどかった訳だし。
「狩りって、一人じゃなかったんだ?」
「……あ」
腕の中で、わずかに身を硬くするのがわかる。
「別に、浮気したとか思ってねーし」
「たりめーだ馬鹿。……ていうか鎧とか痛ぇから少し力抜けって」
放せと言わないあたりが何となく愛おしい。
顔が見える程度に腕を緩めると、もぞもぞと身じろぎして顔が正面に来た。
うつむいているから視線は合わないが、お互いの吐息がかかるほどの距離でおでこを合わせるような形になる。
「やっぱり誰か雇って公平で狩ってもらってたとかいうやつ?」
「……うん」
覗き込むように、視線だけが上がる。
深い緑色の瞳が、視界一杯に広がった。
「ARしか無いって言っても、それさえあれば十分っていう良い人だったよ」
「そっか……」
ていうかいつの間にアドレナリンラッシュ覚えてたんだよ。
俺には意味無いから製造関係だけ覚えろとか、保険でハンマーフォールだけ覚えときゃ良いとか言っといたのに。
……まあ、たまにソロもやるんだからあっても良いんだろうけど。
「でも……」
さあ、自分でも大人気ないってわかってる事をぶちまけようか。
「そういう事されると、俺の立場無くない?」
「……っかじゃねーの!?」
”ば”が消えてるぞ。
心底あきれ果てたという顔が目の前にある。
たぶんそんな顔されるだろうなーとは思っていたが、実際に目の前で見るといささかショックだ。
「そんなこと言われたら、俺ソロだってろくにできねーじゃん!!」
「さすがにソロまでどうこう言うつもり無いけど……」
「たりめーだ。だいたい俺の気持ち…とか、……知ってるだろ!!」
顔真っ赤にして怒ってるけど可愛い……。
とか言ったら殺されそうなので言わないけど。
「知ってるし、わかってる。けど、そうじゃなくて、……なんていうか」
むすっとして睨みつけてくる顔を見つめながら、俺は言葉を捜した。
今は見とれている場合じゃない。
「俺は、お前の前に立って、お前の事守って、道を切り開いて行けるような男でいたいんだ」
「アホか!!!!!!」
頑張って考えたのに一蹴された。
なんか泣きたい。
「俺がちょっとソロやったり、誰か雇って狩ってもらったくらいで、そんなん変わる訳ねーだろ!!」
「いや、だから……」
「俺だってお前に置いてかれたくねーんだよ!!」
ちょっと……。
目尻に、……涙。
「ちょ!?」
気が付いた時には、また抱きしめていた。
「だ…から、苦しいし痛ぇって!」
ちょうど耳元に口がきてるんで、鼓膜が破れるかと思うほどの大音響になっていたが。
腕を緩める気にはなれなかった。
大好きだ、愛してる。そんな言葉、何百回繰り返したって足りない。
「置いていくわけないだろ」
「それでも、差が開いたら……」
不安に、させていたのかな。
こいつ連れて、どこにでも行けるようにと思って。
公平が切れないギリギリの位置で、こいつよりも高い場所にいようとしていた。
だってそれぐらいしか、自分で自分の存在意義が見出せない。
もう一人でも大丈夫、なんて言われた日には、俺にとっては世界の終わりだ。
「あ、わかった」
「んだよ?」
抵抗したり不平を言うのはもうあきらめたのか、ヴァンは腕の中で大人しくしている。
「俺、お前といるのに慣れきってて当たり前だと思ってるから、二人分狩らなきゃっても辛いとか思わないんだ」
「………だから?」
「むしろもうそういう生き方しかできないから、自力でなんとかされると不安になるんだよ」
「……………馬鹿か?」
声が呆れてる上に冷たい。
俺だって、不安になるんだ!
「とりあえず、ちゃんと言っとくから聞け。あと痛ぇから腕ゆるめろ」
今度は大人しく従った。
ぼさぼさの緑色の髪が、正面に来る。
「俺は、……俺の事引っ張り上げてくれるから、お前の事が好きな訳じゃないんだからな」
下から睨み上げるような目つきのままそう言うと、また口を真一文字に引き結んだ。
「うん……」
「あと、……それと」
わかっていたつもりなんだけど、改めて言われると嬉しくて。ちょっと頬がゆるみかけていたら、なんだか照れたように視線を逸らされた。
「ちゃんと、…か……」
「か?」
「……………かっこいーと、思ってる…から」
どうしてくれよう。
不貞腐れたようなツラでそんなかわいい事を言われた日には、あんな事やこんな事がしたくなるじゃないか! しかも今すぐに!!
いかん、顔がにやける。
「も、いーからいいかげん放せ! 腹減ってんだよ飯食わせろ!」
更に不機嫌な顔になって脛を蹴られた。
脛当てがあるから痛くはないが、さすが高DEX高LUKの製造型だけあって狙いは正確だ。
そして実際この場で押し倒すには、こいつを脱がせるのは容易だが、俺が脱ぐのに手間がかかる。
「よし、すぐ食いに行こう。精のつくもんをたんと食え」
「………待て、なに考えてやがる」
「今日は思いっきり可愛がって明日も狩りに行けるように、と……」
「かっ、か…可愛がるのは別にいいから!」
顔なんか不機嫌なままなのに真っ赤になってるから、もう可愛いとしか言いようが無い。
「よーし、今夜は寝かせないぞう」
「寝かせろよ馬鹿たれ!!」
後頭部をぽかぽか叩かれ続けたが、俺は気にせず手を引きながら意気揚々と部屋を出た。



まだ、自信は無い。
転生して、もし戦闘型に転向されたら、今の俺はどうしたら良いのかわからない。
でもそんな日が来るのは、きっとずっと先だから。
それまでに、もっと余裕が持てるようになっていたらいい、と思う。
今腕の中で眠っている存在が、何もかも余すところ無く全部自分の物だと言いきれる、そんな自信が持てるように。
何よりも、俺の心を強くしていこう。



一週間ぶりに見る同僚は、相変わらずちっさくて可愛かった。
ちなみに俺の同居人は、今日は一日家で大人しくしているか、せいぜい露店をしているくらいだろう。
まあ、別に。
とやかく言う気は無い、とは言っているものの。
やっぱり何かあんまり面白くないとゆーか、ようするに俺の独占欲と自己満足なだけではあるんだが。
他のやつ、特に他の男なんかに頼って欲しくないので、昨晩動けなくなるまで可愛がっておいた。
ぶっちゃけ俺も四時間程度しか寝てないが。
俺は大丈夫、体力馬鹿だから。
市街地の巡回は単調で眠くなりそうだが、この同僚と話しているのは楽しいので何とかなりそうだ。
いつものように見回り、いつものように定食屋で昼飯にありつく。
注文した料理が来るのを待つ間、彼女が思い出したように言った。
「そういえば、こないだ会ったから意味を聞いてきたのよ」
「は? 何の?」
「ヴァンクールの意味を、未来の銘の人に」
「……あー」
そういや先週、そんな話をしてたっけ。
向かいの同僚の呆れ顔が、笑顔に変わった。
「やっぱり同じ国の言葉だったみたい。勝利者、ですって。武器につけるなら良い名前だねぇ、って言ってたわよ」
「……勝利者?」
「そ、かっこいいじゃない。もう4本も持ってるんでしょ? 勝利者の武器」
「ああ、うん」
属性パイクは4本だが、あいつが初めて作った名刺ナイフも大事に持っていたりする。
「負け戦はできないわねー」
楽しそうな笑顔でそう言った。
勝利者、ヴァンクール。
俺は、勝ち取れるかな。
何から何を勝ち取るのかわからないが、俺はふとそんな事を思った。
「あとね、その名前の武器が露店に並ぶ日を楽しみにしてますって、伝えて欲しいって言われたわ」
「それは俺も楽しみにしてるんだ」
「なら頑張らないとねー、あんたが」
「おう、任せとけ」
笑いあっている間に料理が運ばれてきた。
そうだ、駆け出し用のマインゴーシュなら、そんなに失敗もしないんじゃないだろうか。
あと誰か雇って狩りに行くくらいなら、プリースト雇って製造支援してもらえと言っておこう。
「なーんか、楽しそうね」
「んー、どうやったら露店で売らせられるかな、って」
「あっはは、売りに出たらうちのギルドの子達に宣伝しておくわねー」
人生、大変な事がある分、楽しい事もあるもんだ。
そうでなかったら帳尻が合わない。
俺の当面の目標は、あいつの武器を露店で売らせる事。それと、あいつを光らせる事。
それから、その間に。
あいつの名前、ヴァンクールの武器を持つのに相応しい人間になる事。
「朝は眠そうだったのに、やけに元気な顔になったじゃない? 午後もがんばってねー」
「おーう、今日も街の平和を守るぜ」
目標を決めただけで、不思議なほど不安は小さくなる。
無くなった訳じゃないが、今はさほど気にならない。
我ながら素晴らしい脳筋ぶりだ。



この先の事なんて、考えたら果てしなさ過ぎる。
だから。
その日歩く分を、その日の精一杯で歩いていけばいい。
そうしたら、いつかは目的地にたどり着けるだろう。
あいつと手を繋いで、毎日、ゆっくりで良いから歩いていけばいいんだ。
今日の太陽は若干黄色く見えるが、それでも俺には清々しい一日になった。

2009.1.23

あとがき

攻めの人は騎士になりましたが、名前も外見も決まりませんでしたヽ(´ω`)ノ
あとなんかわからないんですが、ものすごくヘタレました。
ヘタレ攻めは好きですが、この人はヘタレる予定無かったんですけど。あれ、おかしいな('ω';)
ヴァンクール君の方はたぶんBSデフォかセイレン頭(デビアスでしたっけ?)の緑色。

あと、ポジション的に男でも構わないのに女騎士が出張っててすいません;
フトモモはよいものです。


*****


以上、あぷろだに投稿した内容です。
前回が無記名投稿だったので、またもそ知らぬ顔で投稿。
さすがに今回はむとさんにばれました(笑)
いえ、気が付かれなかったらどうしようと思っていたのでほっとしました。ありがとうー(´ω`*)

あぷろだのログ消失事故以前に書き始め、忙しくなって中断している間にログ消失・・・。
そのまま無かった事にしちゃおうかな、とか思ったんですが。
せっかく途中まで書いていたので書き上げてみました。
前回より元の書き口に戻ってます。
転生後は…、というコメントもいただきましたが。
実のところ、そこまで決めていないし浮かばないんですよね(爆
ウォルやジェイドとは違って、わかりやすく喧嘩しながら仲良く生きていくんだろうなー。
そんでヴァンクール君は騎士にごねられて、転生後も製造を続けていくような気がします。

名前も外見も決められなかった攻め騎士。ごめんよ・・・。
書けば書くほどウォルサードになって自分で吹きました。
ようするに、これが私の基本形なんだろうなぁ、と思います・・・。
そしてゲスト出演はミレスでした(´ω`*)
涙目で超強いクレイモアを打った人はお察しください(笑)

2009.2.1追記

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