第1話 『記憶喪失』




 灰色の髪に灰色の目。
 前髪が長すぎて片目が隠れ気味とはいえ、あまり鬱陶しい印象は無い。
 切れ長の目にすっきりと通った鼻筋、薄い唇。眉毛は細いが、わりときっぱりと眉尻が上がっている。
 一言で言ってしまえば美形。ちょっと笑ったら女の一人や二人くらい、軽く落とせそうだ。
 間近で見ていた顔から身体を引いて視線を離す。
 顔から爪先に視線を下ろし、また首元まで戻して全身を舐めるように眺める。
 アサシンの衣装に包まれた身体は、細身ながら均整の取れた筋肉がついていた。バネが良さそうだ、という印象。
 じっくりと眺めるその姿は、鏡に映っている自分自身のはずなのだが。
 まるで自分だという自覚が持てない。
 まあ、この顔が自分の顔なら悪くない、とは思うが。
 俺は目覚めたとき、肩当や包帯のような例の布、その他付属品の一切を取り払われて、肌着とズボンだけで寝かされていた。さっき手渡された衣装の一式を、何も考えずに身に着けられたのだから、俺がアサシンなのは間違いない事なんだろう。
 ……布の巻き方とか、たぶん間違えていないと思うんだが。
「そろそろ気が済んだか?」
 呆れたように俺に声をかけるのは女騎士のクレア、そしてここは彼女の部屋だ。
 俺が目を覚ました場所は彼女達のギルドで借り受けているギルドハウスの一室で、全身が映る姿見があるのは、彼女の部屋だけだった。
 言動が無骨でも、さすがに女性といった所か。
 彼女の顔から、もう一度鏡に視線を移す。
 自分が動くのと同じ動きをする、鏡の中の男には妙に現実味を感じない。
「いつまで見ている気だ……」
「いや、なんかさぁ。……自分って気がしねぇ」
 腕を上げれば、同じように腕を上げる。
 鏡なのだから当然の事だが、鏡に映る男の姿は、俺にとっては初めて見る他人だった。
「まあ、でも、良い男で安心した」
 こめかみに指先をあてながら、クレアは溜め息を吐いた。



 目が覚めてからの一連の騒動の中、ゆっくり考えるとか深く己を振り返るとか。そんな暇が無かったので気が付くのが遅れた。
 だが確実に、俺は俺の事がわからなくなっていたのだ。
 記憶喪失。
 どこから来たのか、何をしていたのか。名前すらもわからない。
 クレアはそんな俺を信用しきれない目で見ていたが、プリースト、リカードの混乱の仕方はすさまじかった。
 取りすがる、泣き喚く、懇願する、神に祈る。
 とりあえずフルコースで披露してから、クレアに呼ばれたらしい背の高いウィザードになだめすかされながら部屋から出て行った。
 いや、違うな。
 なだめすかして連れ出そうとしているのに全く言う事を聞こうとしなかったので、クレアに一発当身を食らって静かになった所をウィザードが引きずって出て行った。
 その後クレアに詰問口調で本当に覚えていないのか等と言われたが、覚えてないものは覚えていないと言うしかない。
 自分で不安を感じないと言えば嘘になるが、なんというか。
 なっちまったものは仕方が無い。
 という、開き直りに近い感覚がある。
 クレアはいまだ信用には足りないという風だったが、鏡を見てみたいと言う俺を自分の部屋に招いてくれた。
 その時に衣装を渡されて、今に至っている。
「レイン」
 無いものは仕方が無いと開き直ったとはいえ、俺が何者かというのは俺が一番気になっている事だ。
 俺の恋人だとか言っている能天気そうなプリーストは、冷静な話ができそうな状態じゃ無かった。
 クレアは目が覚めたしょっぱなの会話から考えるに、俺を知っている人間ではなさそうだ。
「レイン」
 俺がどこから来た何者なのか、手がかりになりそうな物は無いかと自分を見下ろすが。服のどこにも名前の縫い取り一つ無かったのは確認済みだ。
 ああそうだ、アサシンギルドに行けば登録時の書類でも残っていないだろうか。
「レイン! 呼んでいるんだ、返事くらいしたらどうだ?」
「あ?」
 驚いて声の方を向く。
 クレアがイライラと組んだ腕を指先で叩いていた。
 どうやら鏡と向き合ったまま考え込んでいたらしい。
「ああ、悪い。……自分の名前だってのを忘れてた」
「……そうだろうとも」
 クレアは吐き捨てるように言い、俺に一冊の小さな帳面を差し出した。
「武器はまだ預からせてもらうが、これは返しておこう。冒険者証だ。……それが何だかは、わかるか?」
 受け取った手のひらよりも小さい帳面にざっと視線を走らせる。
 表面には、姿を写し取った小さな肖像が載っていた。確かに、鏡の中に見る自分と同じ顔の男だ。
「ああ、冒険者として登録した時に発行されて、転職のたびに書き換えるやつ。……っていう、社会常識っぽいのは、覚えているらしい」
 きちんと言語は理解できているし、自分の衣装を見てアサシンだと判断できる。クレアやリカードの職業もわかるのだから、無くなった記憶は本当に俺個人に関する物だけのようだ。
 冒険者証は一枚の紙切れじゃない、頁をめくればそこにはあらゆる情報が記載されている。
 主に現在の自分の強さを示す目安や、自分が使える技など。
 友人として登録すれば相手の名前も自動的に記載されている優れものだ。
 魔術か技術かはわからないが、なかなか便利な代物だった。
 が、俺の冒険者証に登録されている友人はリカード一人。そして、ギルドにも加入していない。
 過去を手繰り寄せる手がかりは一切無かった。
 そして。
「私がお前を信用しきれないのは、それを見ればわかるだろう」
 彼女の言う事は、すぐに理解できた。
 その帳面の表に記載されている名前は、何をどう縮めても組み替えても、レインなどと言う呼び方にはならない。
 記憶が無いから当然ではあるが。
 見た事も聞いた事もない男の名前が、そこにはあった。

2008.6.5

あとがき


王道プリ×アサなら外見も王道で!
と思ったので、RO♂萌えサーチ様で登録数の多い髪型から選んでみました(笑)
レインさんは白キタロウです。銀髪じゃなくて灰色なのは私の趣味です(ここら辺が王道からずれてる
ちなみにクレアたんが剣士デフォの茶髪なのも私の趣味です(´▽`*)
プリーストそっちのけで話しが進んで行くあたりが、本当に私らしい・・・。

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