あるアサシンの愚痴

俺の所属するギルドは結構な大所帯かと思う。
職業なんかてんでんばらばら。みんな適当にやっている。
マスターは騎士、副マスターはクルセイダー。そしてプリーストが一人。この3人がギルドの中じゃ頭一つ分、冒険者の格が高い。
昔はもう一人格の高いプリーストがいた。マスターの幼なじみだったが、嫁に行って引退した。今は子育て真っ最中らしい。たまにマスターに手紙がくるらしく、近況を教えてくれる。
彼女が残っていてくれれば、とか、ちょっと思う。おっとりと優しいお姉さんだったんで、狩りに付き添ってもらっていたシーフの頃は至福だったんだ。
そんな俺は、現在ギルド唯一のプリーストにスパルタされているアサシン。
絶対無理、絶対死ぬ、っちゅうに。グラストヘイムの騎士団内なんかに首根っこ引っつかまれて連れて行かれる。
更に奥まで引きずって行かれた事があるが、ブラッディナイトに殺されてからは大人しく一歩手前で済ませてくれるようになった。が、毎回死線を掻い潜る狩りは寿命を縮めていると思う……。
最近良かった、と思うのは。このプリーストに恋人が出来たこと。
………いや、良いんだか悪いんだかちょっと微妙なんだけど。
その分、俺に当り散らす回数が減ったのはありがたい。
……………八つ当たりで狩りに連れて行かれてたんだよ(涙
しっかり支援はしてくれるから、死にそうになっても死ぬ事は滅多に無いんだけどさ。
んで、恋人ができて幸せで良かったねー。ってなもんなんだが。何気に色々すれ違ってるっぽい。
何やってんですか、あんた達は。
やけに長い片想いの間に、愚痴は聞かされるわ八つ当たりされるわ。散々だった分、もの凄い勢いで祝福したい気持ちだとゆーのに。
なんかこー、素直に祝福したくないような気もしないでもないんだけどもさ……。
俺の歯切れが悪いのは、お相手さんがちょっと……。いや、良い人です。相手の人はめっちゃ良い人です。むしろこのプリーストが問題。つか、えぇと、つまり。

二人とも男ってのが、素直に祝福できない感じで………。

なんつーか、あれです。
兄貴がホモになっちゃった弟の気分を満喫中。
この場合の兄貴は、うちのギルドのプリーストじゃなくて、お相手さんの方。
頼りになる良い人なんだよ〜〜〜〜〜。
早くまとまって欲しい(八つ当たりが痛いから)と思っていたんだが、この人がホモに走ったらショックだと思っていたのも事実。
そして大ショック。
可愛い女の子が隣に居る方が似合いそうな人なのに。男に走ったって可愛いタイプの方が似合うんじゃないかと……。うちの可愛げの無いプリーストのどこが良いんだろうか。
聞くと向こうも向こうでずっとこのプリーストの事は好きだったらしい。つまり両想いの上で晴れて恋人同士に。
………世の中が信じられません。
世を儚んで暗殺者家業に精を出そうか。
冒険者の生活ばっかりしてたから、本気の暗殺なんかした事ないんだけどねー。
アサシンギルドはこんな奴は結構いるさ。依頼されて要人暗殺なんかやってるのは、もっと腕の良い一握りのアサシンだろうし。
………と、信じていたいのは俺が甘ちゃんだからかな。
甘いが故に面白がっていじられている気もする……。
繊細なクリティカルアサシン(予定)をいじめないで欲しい。
なんて事をプロンテラの大聖堂近く、ギルドの溜まり場に座り込んでぼんやり思っていると、遠ーくから人影が近付いてくるのが見えた。
太陽は中天の真昼間。今日はみんなそれぞれ狩りやら自分の用事やらで出払っているらしくて、今は俺一人しかいない。
人影がはっきりと人物の姿をとる距離になったとたん、俺は条件反射でハイディングしていた。
そいつは歩調も変えずにのんびりと近付いてきて、俺の目の前にくると。
「ルアフ!」
「うわぁ!ごめんなさい!」
思わず頭をガードしてしまった。
あぁ、いけない。大事な+4ウサギのヘアバンドがひしゃげる。過剰精錬なんて怖くてできません。
「俺の姿を見たとたん隠れるとは良い度胸だ」
思いっきり上から見下ろしてくるのは件のプリースト。当年とって22歳、眼光鋭い男前だ。
………その目つきは聖職者じゃ無いと思います。
「丁度良いキリヤ、行くぞ」
あぁ、キリヤってのは俺の名前。生まれがフェイヨンでさ。俺が生まれた当時はまだ伝説っちゅーか、噂みたいなもんだったアマツに憧れた両親が、そっちの方の雰囲気の名前って事でつけたらしい。
意味はあるのかと聞いたら、よくわからない答えが返ってきたっけ。きっと意味もわからずフィーリングでつけたんだ家の親は。
とか考えてる間に睨みが怖いので立ち上がる。
「行くってどこへ?」
「狩りだ」
「ウォルさんはどうしたんだよーーー!?」
「知らん」
めっちゃ不機嫌ですこの人ーーーーーーーーーーーー!

「ウォルサードさんーーーーー!!!!!」

俺は思わず最大音量で耳打ちで叫んだ。

―――っ、なんだよ?キリヤか?

すぐに返事が返ってきた。なんとなく耳を押さえている光景が目に浮かぶ。

「殺されるーーーー!!ジェイドに騎士団にぶち込まれてブラッディナイトに殺されるーーーーーー!!!!!」
―――あぁ(汗
「何やってんすかあんたは!?ジェイドほったらかしなんすか!?」
―――いや、そんなつもりは無いんだが……。

この耳打ち相手が、つまりジェイド、目つきの怖いプリーストの恋人であるところの、ブラックスミスのウォルサードさん。
どうにか公平に狩りできる格を確保してるので、何回か狩りに連れて行ってもらった事がある。
避けない代わりにめちゃくちゃ頑丈な人なもんで、何度も助けてもらいました。

―――でもまぁ、あれだろ。お前も強くなってるし。そろそろ行けない?
「無理!絶っ対無理!!!」

何を能天気な事を言ってるんだこの人はーーーーー!
幸せで脳がいかれたか、それともジェイドに洗脳でもされてるのか。
………ちょっとだけそうであって欲しいような気がする。
こんな間にもジェイドな胡乱な目で俺を見ている。怖いよー(涙

「助けてーーーーーーーーーー!!!」
―――いや、すぐには動けないんだが(汗
「今すぐ来てくれないと殺されるーーーーー!!」
―――あぁぁ(汗 あー、夕方くらいまで粘れないか?
「無ー理ー(涙 だってこの人、騎士団行かなかったら聖書の角で俺の事殺すと思う」

なんたって+8ダブルボーンドバイブルなんてネタかと思うような聖書をもっているのだ。
それで殴られるのは主に俺。痛いんだよ……。
避けるとホーリーライトだし(涙

―――用事が終わらないんだ。済み次第行くから、頑張れ(汗
「そんなぁ」
―――………生きてろよー。

それっきり返事は無かった。
神様、あなただけは俺を見捨てないで下さい。
すぐそこにある大聖堂を仰ぎ見る。太陽の光がとんがり屋根に反射して眩しいね!思わす涙が出てくるよ!!
「ぐずぐずするな、ゲフェンまでのポータルを出すぞ」
「うわぁ、待って待って!」
見るともうビレタ被ってるしバックラーと神官の杖を小脇に抱えて、殺る気満々だ……。
触媒であるブルージェムストーンを掲げようとする手を慌てて掴んだ。
「ウォルさんも来るって言ってるからー…」
「………ほぉ。…お前の誘いには答えるのか」
うわぁ………、更にご機嫌が急降下しました。口角を吊り上げるような笑顔が恐ろしいです。目が笑ってません。
「あ、あの。……最近、会えてないのか?」
「知るか。何の用事か知らんが奴はモロクに引き篭もりだ」
もしかしてさっき振られて帰ってきたばかりなんだろうか?
……………最悪。
モロクは現在ウォルサードさんのギルドが拠点にしている。もしかしたらギルドの用事なんだろうか。
恋人より仕事を大事にする男ってのは同性としてちょっと格好良いと思うのだが、能面みたいな顔して殺気漂わせているプリーストを前にそんなこと言えない。
「だいたい……、今日は」
苦々しそうにぼそりと言う。
はて、今日は何かあったっけか?
「あぁ、いたのか二人とも」
突然の声に振り返ると、ものすごく高い山が目の前にあった。
ごめんなさい、副マスターのクルセイダー、ダレンさんでした。
急場の救い主が来てくれた。神様ありがとう。
オールバックのこげ茶色の頭にヘルムとエラヘルムのお約束な装備をしたこの人は、俺より15cmも背が高いのがたまに憎くなる。
俺はともかく、ジェイドの装いに気が付いたらしい。おや?という顔をする。
「これから二人で狩りにでも行くのか?」
「あぁ」
「行きません行きません!」
慌ててぶんぶん首を振ると、遠心力でウサミミが飛びそうになる。
とにかくそれで、なんとなーく事情は察してくれたらしい。苦笑いして思案している。
「あぁ、そうだ。これから昼飯にしようと思うんだが。一緒にどうだ?」
「いや…」
「行きます!」
元気良く手を上げると、射殺す勢いでジェイドに睨まれた。
見ない振り見ない振り。
「臨時で少し稼ぎが出たんでな、おごるぞ。お前もどうだ?ジェイド」
「ほら、行こう行こう。食事は大事だよ、うん」
腕を引っ張ると不承不承うなずく。
ありがとう神様、ありがとうダレンさん。さすが副マスター!さすが三十路!
グランドクロスなんて大技かまして貧血になりながら自分でヒールかけてるの見るたびに、マゾ? とか思っていたけど。
今日だけは素直に感謝して尊敬します。



食事は微妙。
いや、美味しかったし腹いっぱい食えたんだけど。
ジェイドが不機嫌をまったく隠さないので空気が悪いったら。
ダレンさんに言わせると、こうやって不貞腐れてるのを隠さない相手も限られているそうで。
ギルド内でもこんな感情を見せる相手と見せない相手がいるそうだ。まぁ、まだ一次職の連中には当り散らせんわな。
だから当り散らされるのも、それはそれで特権だ。と、反抗期の息子を抱えている親父みたいな事を言ってました。さすが32歳は懐が広い。
飯を食うと少しは気が落ち着いたのか、ジェイドも少し雰囲気が柔らかくなった。
ただ今度はちょっと、なんというか落ち込んでる感じになった。
あぁ、いつものパターン。
前からそうだった。ウォルさんに会えなかったりムカついたりすると機嫌が悪くなって、その後やっぱり寂しいのか落ち込むんだ。
なんか、道端で背中丸めて小石蹴ってそうな雰囲気。
こういうのはダレンさんも放っておけないらしく、困ったように頭をかいている。
「あー、なんだ。……何か嫌な事でもあったのか?」
ウォルさんに会いたいだけだと思います、ダレンさん。
「別に……」
ジェイドの答えもそっけない。
あぁ、食事は美味しかったのにねぇ。食後のお茶も美味しいのにねぇ。あぁ、このお茶フェイヨンの特産だね、懐かしい香りがするよー。
「俺は、…お前達は上手くやっているのだとばかり思っていたが」
俺が現実逃避している間に苦笑いしながらダレンさんが言う。お前達ってのは、もちろんジェイドとウォルさんの事だ。なにせこいつが片想いしている時代からこっちのギルド内では公認だったんだ。
てか、結構わかりやすく慕ったりしていたのに、どうしてウォルさんは気が付かなかったのかと……。
「あぁ、上手くやっていたさ」
………ちょっと言葉に不穏な響きが感じ取れたのは気のせいでしょうか?こんな時の笑顔は怖いだけです、お兄さん。
ジェイドは息を吸うとその後を一気にまくし立て始めた。
「あいつが必要だって言うから炭鉱掘り尽くす勢いで狩りに行ってたんだ。2週間も!それがすんだら今度は用事があるからしばらく会えないだと?昨日も一昨日もその前も、用がすんでないから今日は付き合えないだ?もう5日だ。どんな用事で5日も必要なんだ!?」
炭鉱掘ってるのはスケルワーカーだと思います、お兄さん。
そんなツッコミも入れられる雰囲気じゃありません。
そうか、あぁ、門前払い5日目だったのか。………切れるね。
「その用事とやらは、どんな物か聞いていないのか?」
「知らないね。終わったら話すと、そればかりだ」
この二人、毎日会えている訳じゃないのは俺も知っている。ジェイドは俺のギルドの唯一のプリーストで、どうしたってその助けが必要な時がある。ウォルサードさんは戦闘BSで、向こうのギルドでマスターに次いで格が高い。商人ギルドのマスターは半製造だから、後輩の商人の壁やら完全製造の人たちの助けやら、そういった事はどうしてもウォルさんの役目になる。
お互いの事情で会えない時は、理由がはっきりしているから納得しているんだと思う。
「いつ終わるとも聞いていないのか…」
「終わったら連絡する、とさ」
吐き捨てるように言ってお茶を飲む。酒盃だったらさぞ似合う光景だったろう。
「それでもまぁ、会えては、いるんだろ?」
「今日は、ね。昨日はどこかに出かけてたんだか、会えもしなかった」
完全に不貞腐れてます。
どうやら最初の3日は大人しく待っていたらしい。たしかにその頃は俺も狩りに付き合ってもらったりしていたし、まだアコライトの後輩の狩りに付き合っていたのも知っている。
で、4日目で会えず、今日も門前払い。青ジェム消費してモロクまで会いにいったんだね……。こーゆーとこいじらしくて可愛いんだけどねぇ。
「まぁ、あれだ。連絡すると言っているんだから。あいつの事だ、約束は守るだろう」
「………そんな事は、わかってる」
多分、問題はそんな事じゃないんだろうなぁ、というのはわかる。かといって口なんか怖くて挟めません。
あぁ、ウォルさんもよくうちのギルドの溜まり場に顔を出すんで、うちの面子はみんなウォルさんの事は良く知ってる。
真面目でこつこつやるタイプなのが、ダレンさんも気に入ってるらしい。
「ごちそうさま。……それじゃ」
そう言ってジェイドが立ち上がる。なんだかほっておけないので、会計を済ませているダレンさんを置いて追いかけた。
「どこに行くんだよ?」
「蛙でも殴って空きビン集めてくる」
その手にはいつの間にか+8ダブルボーンドバイブル。それなら一撃だね。
って、なんだかそのままグラストヘイムまで徒歩で行きそうな気がするのは気のせいでしょうか?

―――キリヤ?まだ生きてるか?

なんてグットタイミング!

「ウォルさん、ジェイド止めてーーーー!」
―――なんだ?どこに居るんだ?
「まだプロンテラ。ジェイド一人でどっか行きそうーーーー(汗」
―――すぐに行くから、もう少し引き止めてろ。

「ジェ、ジェイド。待てってば」
がすがす歩いて行く袖を引く。それでも止まってくれないので、とりあえず進行の邪魔をしよう。
「石拾い、そして石投げ!」
見事に背中に当たって、なおかつスタンまでしてくれたようだ。
頭を狙わなかったのは気を使っていたからだ。けっしてその後が怖かったからじゃないぞ。
滅多に成功しないのに、超ラッキー。運を鍛えていて良かった。
「キ…リ…ヤ」
ギリギリとこっちを振り向く顔に本気で殺気があったので、思わずバックステップまで使って飛びのいてしまった。
「落ち着けよ、な?…お前このままグラストヘイムまで行きそうなんだもん」
「付いてくれば良いだろう」
「嫌だーーーー!」
歩きかけたままのポーズで固まっているプリーストと、ビクビクしながらそれに話しかけるアサシン。道行く人は怪訝な顔をしている人もいれば、賑やかな首都での事で慣れているのか何事もなく通り過ぎる人もいる。
「とにかく落ち着こうよ。いっぺん溜まり場に戻らないか?ミレスとかアテラとか来てるかもしれないし」
ミレスはマスター、アテラは後輩のアコライト。ジェイドが頼りにしているっぽい人と、可愛がっている和み系の後輩の名前を挙げてみるが、効果は無さげ。
スタンから回復したのか、俺がまた握っていた袖を振りほどくとまた歩き出す。
「速度増…」
「石投げ!!」
そんな事されちゃ追いつけなくなるわ!!
ほとんど一瞬で終わるこいつの詠唱を妨害できたのは奇跡かも。
「キーリーヤー」
本気で殺されるかもしれません、お父さん!!!
「落ち着け、とりあえず落ち着け…」
バイブル掴む手を震わせながら、本気モードでジェイドがジリジリ歩み寄ってくる。
とりあえず引き止める事には成功しているけど、俺の命が危ないです。
「ホーリーライト!!」
そっちかよ!?
避けられないので思いっきりくらいました。目の前に星が飛んでいて綺麗です。

―――お前らどこにいるんだー?
「西門に行く道っす〜〜」
―――そんなとこに…。いつもの場所かと思った…。

あぁ、溜まり場の方へ行ってたのか。
………真反対じゃん。
てゆーか、俺に耳打ちする前にジェイドに耳打ちしてくださいウォルさん。
耳打ちの間にちょっと目の前が見えてきて、人ごみの中に消えて行くジェイドの背中が見えた。幸い速度増加はかけていないらしいのでバックステップで追いかける。
……こっちの方が早いんだよ。
「ジェイド!」
思いっきり目の前に飛び出したら少し吃驚したらしくて立ち止まる。
「ウォルさんだって来てくれるって言ってるんだから」
「……………」
半眼で俺を睨みつけながら、押し退けてまた歩き出す。
「ジェイド〜〜〜」
我ながら情け無い声だと思うけど、ほんとにこの人ほっておいたら一人でグラストヘイムの最下層まで行きかねない。
なんかもう、どうやって止めていいのかもわからずに。ずんずん歩いて行くのを付いて行くしかない。

「ウォルさん、ごめんなさい。街から出ちゃいました…」
―――止めてろよ(汗

そんな事言われても〜〜〜。
「ジェイド、なぁ?もうちょっと待ってようよ」
妙な迫力を持って歩くプリーストと、法衣の背中を掴んでそれに続くウサミミアサシン。
珍妙、激しく珍妙!
はたから見てる身分だったらきっと笑うぞ、俺は。
「ジェイドってば〜〜〜」
「俺に言えんような用事をかかえている野郎を待つ必要など無い」
あぁぁ、拗ねてる理由はやっぱりそこですか。ポイントは「俺に言えんような用事」ってやつね。
こんな事、思ったって口には出さない知恵ぐらい俺にもある。
あぁもう、下水入り口前の橋まで来ちゃいました。ウォルさん〜〜〜〜。
「ジェイドー!」
遠くから俺も知っている声が聞こえて。ジェイドがびくっと震えて立ち止まった。
振り返るともの凄い勢いでウォルさんが走ってきていて。
真の救い主の登場、太陽の光に金髪がきらきらして天使のようです。俺の目には本当に天から遣わされた御使いに見えます。使い込んでボコボコになったカートを引いていなければ完璧です。
走る勢いは速度増加がかかっているごとく。……とゆーかその速さは速度増加かかってないと無理!
「どうやって!?」
「通りすがりのプリーストに青ジェムと引き換えに速度増加もらった」
なるほど。
恋愛事には鈍いのに、それ以外の事は主語を抜いても意味を汲み取ってくれる鋭さがあります。ありがとう。
「ジェイド」
「何しに来た」
やっと追いついたウォルさんが話しかけても、背中を向けたまま振り向く気配も無い。
この頑固者は嬉しいのにまだきっと怒ってるんだな…。
ウォルさんも困ったみたいに頬を掻いてから、カートに被せてあった日ごろ愛用しているマントをめくる。……何か山盛りに満載しているのかと思っていたら、そこにはでかい花束が………。
「ジェイド、これ」
その花束を横から差し出すと、さすがにジェイドも驚いたみたいで顔を向ける。
「今日は、ほら。…大事な人に贈り物するって日、だろ?」
……………。
思わず手をぽんと打つ、古典的なリアクションをしてしまった。
セントバレンタインデー。自分は関係ないから、すっかり忘れていたよ。ははははは。
……………寂しい。
「これ、が、用事か?」
うっかり受け取ってしまったみたいで、花束を抱えながら花越しに睨み上げている。
花束用意するのに5日はないだろ、と俺も思う。
とゆーか、俺はここで何をしているんでしょう?そろそろ邪魔者な気配がびんびんします。
「いや、メインはこっち」
と、ジーンズの後ろに挿していた短剣を鞘ごと抜き取って手渡す。
なんだか良くわからない顔をしながらジェイドはそれを受け取って、片腕に花束を抱えながら鞘から抜きはなった。
その形状はダマスカスで、炎の属性をまとっているのが俺にもわかった。
「………これ、……お前の銘が」
今度こそ本当に驚いたみたいに、唖然とした顔がウォルさんを見つめていた。
「失敗ばっかりして、今までかかっちまった。……だから、えぇと」
ウォルさんは照れたみたいに頭を掻いて。

「間に合って良かった。………誕生日おめでとう」

そーですか、そーゆー日でもありましたか。「だいたい……、今日は」自分の誕生日。だったんだね、ジェイド。
その言葉にはさすがに頬を赤くしたジェイドと、それを嬉しそうに見ているウォルさん。
幸せそうで良かったよ。
なんで。
「……………ハイディング」
「ルアフ!」
「気を使っているんだぁぁぁ!!」
「小ざかしい」
人の悪い顔で笑いながら俺を見ているジェイドは、もういつもの感じで。機嫌ももう直ってるのかな。
そんで俺にどうしろと?このままここに居座っている利点が俺にはありません。
てゆーかそろそろ逃げ出したい気持ちで一杯です。
やっぱりその意地悪そうな笑顔のまま、ウォルさんに視線を移す。
「何回失敗した?」
「…………えーと」
ウォルさんの笑顔が苦笑いに変わる。
「………10回ちょっと、かな…」
うわ。根性だな。
「俺を呼ばないからだ」
「驚かせたかったんだよ」
「これは嬉しいけど、俺をほったらかしにしていた礼はしてもらうからな」
「覚悟はしてるともさ」
神様、そろそろ俺をこの場から消し去ってください。
幸せそうに寄り添う二人なんか見ていても目の毒です。
街の外の人の居ない所で良かったっっ!
「あぁ、渡すもの渡したらほっとして腹減った…」
「昼飯なら俺はもうすませた」
「う。……じゃぁ、一人で…」
「付き合うよ、俺は茶でも飲んでる」
ニコニコしているジェイドはさっきまでとは別人のようです。
なんだか俺を無視して会話が進んでいるのがありがたい。
二人してそのまま街に引き返して行く。本気で無視か。
ウォルさんがちょっと振り返って、申し訳なさそうな笑顔で手を振ってくれた。
それに手を振り返して二人を見送る。
音符とハートが乱れ飛んでいそうだよ……。
そのままラブラブしていてください。飯が終わった後にどこにしけ込もうが知ったこっちゃありません。
………すげぇ疲れた。
このままどっか狩りに行く気力も無かったんで、溜まり場にしている場所に戻るとダレンさんがいた。
ウォルさんが来てくれたと報告すると、良かったと胸を撫で下ろしている。
あぁ、本当に良かったよ。
しまいにはあてられっぱなしで。
…………俺は可愛い彼女を作ろうと心に決めた。



ジェイドが俺を無理な狩場に連れて行くのは、俺がまだ弱いからだと知っている。
支援と回復で、手一杯になるからだと知っている。
想うばかりで何も出来ない自分に、一番苛立っていたのがジェイドだと知っている。
忙しく気の抜けない状況になれば、その時だけはウォルさんの事を考えないでいられるんだろう。
考えていたとしても、悩んで沈み込む暇が無くなるんだろう。
ジェイドはいつだって必死だったんだよ。
あんたが自分のギルドの仲間に付き合って、狩りに行くたびに強くなるのは当たり前だけど。
自分で戦えないジェイドは俺達と一緒にいるしかない。俺達と狩りに行くか、臨時に行くしかないんだ。
俺をつれて無理な場所に行くのも、あんたと離れたくないからだよ。
幸せにしてやってよ。
休憩にかこつけてあんたの背中にもたれかかりながら、一瞬だけ泣きそうなほど切ない顔を浮かべた。
背中合わせでウォルさんには見えなかった表情を、俺は見てしまったから。
本気なんだな、と、わかってしまったから。
複雑だったけど応援していたんだ。
やっと想いが叶ったんだから。
あんまり、寂しい思いはさせないでやってくれないかな?



次の日もまだプロンテラに残っていたウォルさんに会った。
場所は俺たちの溜まり場。
ジェイドはまだゆっくりして後から来るのだそうだ。
あー、別に昨日なにがあったかは聞きません。聞きませんから話さないで下さい。
代わりにダマスカスの苦労話を聞いた。
ジェイドと炭鉱で集めていたのは、やっぱりこの材料だったらしい。
それを全部ギルドの仲間に頼んで鋼鉄にしてもらって、エンペリウムの金敷き(持ってる人がいるんだこれが)を借りて、装備も借りて。プリーストさんを雇って延々チャレンジし続けていたらしい。
材料が無くなればプロンテラまで買出しに来て、それでも足りない分は一人で炭鉱まで狩りに行っていたそうだ。
一昨日ジェイドが会えなかったのは、丁度そんな時だったんだろう。
どうやら本当の所、失敗回数は10回ちょっとどころじゃないっぽい。
そうまでしてファイアダマスカスを………、と。それを選んだ理由はわからなくもないんだけど。
「ナイフじゃ簡単に作れちまうけど、あれだと多分もう一生造れそうにないからな」
苦笑いしながらそう言った。
ジェイドが持っているのを見て、せがまれて他の仲間にも名刺代わりのナイフを造ってしまったそうなので。本当にたった一つきりの物をあげたかったのだそうだ。
……………神様、他人の惚気話を憎く思う俺を許してください。
マスターのミレスが合流して、ダレンから聞いたわよー、昨日は大変だったわね。なんて、楽しそうに言われて殺意が芽生えた俺を許してください。
俺はもう、あれです。
ちっちゃくて可愛い彼女を作ります。
自分の心の平穏のために。
昼と言うにはもう遅い時間になって、ようやく姿を現したジェイドは昨日と打って変わってご機嫌でした。
そのプリーストの法衣の襟の影とチョーカーに隠れるギリギリの所に、真新しそうな赤い跡を見つけてげんなりしたとか、別に良いんです。
この兄さんの幸せが、当面の俺の心の平安だから。










でもちょっと複雑で泣きたくなるのは許して欲しい。
兄ちゃんが二人ともホモになっちゃたよ………。

2004.2.9

あとがきっぽいもの

一応「その後」です。予定していた物とは全然違いますが;
一作目と二作目の「賑やかな狩り」に参加した、ウォルの言う「知り合いのアサシン」はこいつですw
やっと登場させる事ができました。
・・・・・普段からジェイドにはいじめられている人ですw

バレンタインデーは元々は男女関係無く大切な人に贈り物をする日だそうです。
女の子が好きな人にチョコを渡すと言う風習は日本の菓子業界の陰謀です。・・・美味しいチョコレートが出回るのでありがたいですがw
とりあえず「大切な人に贈り物をする」方を選んでみました。この二人、チョコとか似合いそうになかったもんで・・・。
あれです、苦肉の策に言い訳をつけているだけです;

ウォルサードに本当にファイアダマスカスが造れるのか?
とりあえず某所の鍛冶シュミレータで試した所、成功率46.4%でした。さすがDEX:16のLUK:1・・・;
ナイフ話の時の装備のニンブルクリップをニンブルグローブに変えて計測したんですが(そろそろラヴニールさんあたりが持ってても良さそうだったので)エンペ金敷き使ってもこれか、と。
製造のDEXとLUKは本当に大切ですね・・・・・。

勢いでジェイドの誕生日決まっちゃった、どうしよう・・・_| ̄|○




後になって気がつきました。
ウォルサードまだsグローブ装備できません;
本当に作れたのか?ファイアダマスカス;;; (3/26追記)

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