一人の夜と二人の夜

長年相方だった男と、恋人の関係になってどれくらい過ぎたろう。
なし崩しはなし崩しだったが、本望だからそれで良い。
結構、お互いが思いつめていたギリギリだったようだし。
当然の結果だったと思っておこうじゃないか。
片想いだったと思っていたのが両想いだった。
それを知った時の事を思い出せば、会えない時間も幸せな気持ちでいられる。
よく知っている相手だったからこそ、その言葉に嘘が無い事もわかる。
想いを遂げて時間が経てば、飽きたりしないだろうかと不安になった事もあるが。
今の所それは無い。
少なくとも俺には。
向こうもそれは無い、と思う。
毎日一緒にいるような時は、それこそ2日と開けずに求められて。
叱り飛ばすとか怒鳴り倒すとか蹴り落とすとか。
それぐらいしないと俺の体力がもたない。
だからまぁ、飽きられてはいない。と思う。
思うのだが。
半月以上も会わないでいると不安になるだろう。
いや、わかっているんだ。
あいつのギルドの製造目指している商人が転職までの追い込みだって事も。
他の戦闘BSはもっと格上の製造とほぼ固定で組んで狩りしてるって事も。
普段俺とばかり行動している奴にお鉢が回ってくるのは仕方ないって事も。
しかも2人もまとめて面倒みてるって事もな!!
それでも半月、だ。正確には18日間だ。
毎日遠くから届く、愛を囁く声が。
会いたいと言ってくれて、欲しいと言ってくれる声が。
どれくらい俺を焦らしていると思う?

―――ジェイド、もう限界。……会いたい。
「会いに来る根性は無いのか?」
―――や、無理。流石にあの格になると、壁するだけでも疲れる……。

本気で憔悴した声が、俺の我侭を封じる。
遠くにいるはずの男の声が、耳元で囁くように響く。
その声だけで、身体がジンと熱を帯びるのは。
何もかもお前が悪い。

―――お前から会いに来てくれないのか?
「俺が行ったら、帰れなくなるだろう。……こっちも、毎日それなりにやる事があるし…」

嘘じゃない。
こっちのギルドだって、新しく入ったシーフの女の子は成り立てと言っても良いくらいで。
まだ見ていないと危なっかしくて仕方が無いんだ。
俺が常日頃いじめているアサシンは、後輩が出来たと有頂天だが。
彼女に手が掛からなくなったら、またいじめてやる……。

―――……なぁ。…俺の事思い出して、抜いたりしてる?
「!?…馬鹿言うな!」

熱くなっていた自分の熱に、無意識に置いていた手を慌ててどけた。

「お前こそ、くだらない事で体力を削ってるんじゃないぞ」
―――それぐらいしないと身がもたないよ。
「……………してるのか」
―――声聞いてるだけでも、我慢できない。お前の体温が欲しい。

ウォルサードの、その時の怖いぐらいに真剣な目が浮かぶ。
逃げる事を許さない、熱の篭った真剣な眼差し。
そのくせ優しい声が、耳を擽って。

―――ジェイド、…したい。
「馬鹿たれが!」

勢いで耳打ちを完全拒否にしてやった。
熱が。
あの声が。
本当に耳に吹きかけられたような気がして。
触れて欲しいから、ずっと我慢していたのに。
俺の手は、もう言う事も聞いてくれないで。
浅ましいまでに熱くなったそれが、指を濡らして。
「ウォル…サード」
俺だって、お前の体温が欲しいんだ。
欲望は放たれても虚しいばかりで。
身体の奥で疼く熱が。
ただウォルサードの熱を求めるばかりだった。



初心者シーフの付き添いは、今日は休んだ。
代わりにアサシンのスパルタ教育。
とりあえず、ある程度気は済んだ。
……昨夜抜いた所為もあるのかもしれないが。
溜め込みすぎると身体に悪い事を実証した気分だ。
夜になって寝床に潜り込んでから、耳打ちの拒否を解除した。
いつもなら、そろそろウォルから声が届く頃で。
けれど、幾ら待っても欲しい声は聞こえてこなかった。
昨日の今日、で。声が聞けないのは、辛い。
せめて声だけでも聞きたい。
と、思うのが。昨日疼いた熱を呼び覚ました。
あぁ、そうじゃない。
声だけで良いんだ。
そう、言い聞かせているのに。
自分で処理する事を、今までした事が無かった訳じゃない。
ウォルサードに抱かれるまでは、それなりに自分で処理していたし。
女だって抱いた事はあるんだ。
それなのに。
今欲しい物は、ウォルしか与えてくれない熱で。
昨日してしまった所為か、手は躊躇いも無く夜着の中に滑り込んでいく。
手に触れる熱は自分の物なのに、どこか違和感があって。
熱に触れる指先が、ウォルの無骨な指で無い事に違和感があった。
いつの間にかあの手に愛される事に、身体が慣れきっていた事を知る。
こんなに、抱いて欲しいと思った事は無い。
抱かれるまでは、こんな疼きは知らなかった。
早く、欲しい。
そうじゃないと。
もう抑制なんか効かなくなるじゃないか。
まだ冷静さを残していたらしい思考の欠片が、後始末する物を用意しろと命令する。
熱に絡む両手の片方を無理やり引き剥がして。
寝台の脇の物入れから手ぬぐいを引っ張り出した。
嫌になる。
両手だって足りない。
この手はウォルサードの手じゃない。
熱くて。
焦れるような熱が内側から身体を苛んで。
もう、ただ。それだけじゃ足りなくて。
もどかしく自分の舌で指先を濡らして、ウォルサードを欲しがるその場所を探っていた。
怖がる暇も、恥じ入る暇も無いくらいに。
すんなりと指先が身体に潜り込む。
初めて触れる自分の身体の中は、きつくて、熱くて。
こんな場所にウォルが入っているのかと思うと、信じられなくなる。
身体を丸めるようにして足の間に差し込んだ手は、深くまで指先を押し込んで。
ウォルがいつも触れてくるその場所に、自然と指先は進んでいた。
「あっ、ふぅっ」
自分でやるから、調整できると思うのは甘いのか。
聞く人もいない安心感からか。
声が何の躊躇いも無く喉の奥から上がってくる。
自分で襞を掻き分ける嫌悪感は、何の抑止にもならなかった。
ただひたすら身体は欲しがって。
熱いとか、柔らかいとか、きついとか。
ウォルサードが俺に囁く言葉を今、自分で確かめている。
「あ…ぁ、……ウォル、…ウォルサー…ド」
こんなのじゃない。
お前が欲しいのに。
早く、もっと広げて。
指なんかじゃない、お前の熱が欲しい。
夜具の下から聞こえる濡れた音は、もどかしげに速さを増して。
どんなに擦り上げても、突き上げても。
足りない。
何かで代用したとしても、きっと足りない。
「あ…ん、……やだ、ウォル。………欲し…よ」
女々しい声が泣き声を上げていた。
目から溢れる涙が、熱く頬を伝わって。すぐに冷たく冷える。
自分の指を何本増やしたって、満足なんてできない。
愛してる。
愛して欲しい。
お前じゃなきゃ嫌だ。
引っ掻くように内側を抉る指が、自分で自分を追い詰めて行く。
焦らされている訳でも無いのに、じれったくて。
絶え間なく自分の良い場所を突き上げ続けて。
きついぐらいに自分自身を握りこんで扱き上げて。
「あっは…ん!…ウォル、ウォル!」
呼んでも返事の無い男の名を上げながら。
自分の身体はこんな時にこんなにきつく締め上げるのだと。
初めて知った。



自己嫌悪で風呂に入りなおした。
当り散らすみたいに自分の浅ましさの証拠の布切れを洗って。
風呂場の扉を開けて俺が出てくるのと、部屋の扉が開くのは同時だった。
「ジェイド!」
そいつは誇りまみれのまま湯上りの俺に抱きついてきて。
「なぁ!?…ウォル!!?」
会いたかったー、とか言いながら頬擦りしてきているのは。紛れも無くウォルサード。
俺の下宿の部屋の鍵は渡してある、が。
「どうしたんだお前!?まだかかるはずじゃなかったのか?」
昨日一昨日の口ぶりでは、あと数日は掛かりっきりになるはずだった。
「ニクと白ポとイグ葉満載にして特攻かけてきた。これ以上時間かけたら俺がいかれる」
言うや否や、久しぶりの口付けに襲われた。
服は埃っぽくて、指を絡めた髪が引っかかる。
今の今まで、狩りをしていたのかもしれない。
その足で、ここまで飛んできたんだろうか。
「ん、……ウォ…ル」
息も出来ないくらいの深い口付けが、俺を逃がしてくれない。
顔を離そうとしても抱きしめてくる腕が、絡まる舌先が。
引かせたはずの熱が、また上がる。
「や、……待っ…て」
首筋に唇と舌が這い回る間に、夜着の前が肌蹴られていく。
と言うか、いきなりか。
俺は風呂上りだというのに。
自分も風呂に入ってからとか、そういう気遣いは無しか。
そんな文句は胸元に降りたあいつの口に、総て封じられて。
チリチリする快感に、口を開けば切ない声しか上がらない。
夜着の下の背中を撫でる手が、いつもは焦らすほどの愛撫もそこそこに。
撫で下ろされて、服の下の、先刻まで俺の指が入っていた場所に触れた。
「やっ、……やめっ」
「?…ジェイド。なんか、柔らかいよ、ここ」
「ふ、風呂上りだからだ。のぼせるまで湯に浸かっていたからだ」
したばかりの身体は、誤魔化しようが無いかもしれないが。
ふぅんと、気の無い呟きを漏らして。
指先が身体の中に潜り込んできた。
「あっ、…あぁ」
「中も、だいぶ緩んでるけど?」
「だ…から、風呂…」
そう言えば、奴は俺が出てきた扉へ視線を向ける。
その間にも中でぐにぐにと動く指は止まらない。
「や…やだ。……やめ」
「ついでだから、一緒に入ろうか?」
「あ…っん、……お前だけ、入ればい…。俺は済ませ…た」
「その方が、手間が省ける」
耳朶を甘く噛まれて、中で蠢いていた指先が抜かれた。
一本しか入れてもらえていないのに。
それだけで、腰が砕けそうなほど気持ち良いなんて。
俺はよっぽど、ウォルサードに飢えていたんだと思う。



落としたランプの明かりをもう一度入れなおして。
浴槽にもう一度お湯を張りながら。
大きく足を広げさせられて、その中心をウォルの舌が這い回る。
「あっん、あ!…やっ、……あぁ!」
どうすれば俺が気持ち良いのかを、俺以上に知っている男の舌は容赦が無くて。
浴槽の中から響く水音にもかき消されない自分の声が憎い。
両腕に押さえられた膝は自由が利かなくて。
持ち上げられて、明かりの中。
自分でも見た事も無い箇所がウォルの目の前に晒されている。
「や、やめっ、…やだっ」
「本当に、ふやけただけ?」
息が敏感な場所にかかって、舌先が窄まりを突いた。
「あっ!」
先刻まであれほど欲していた快楽が、全身に満ち渡る。
ぐぬりと舌先が押し入ってきた。
「んあっ、あぁ!」
ぬるぬるとそれは入り口を広げて。
背中に当たるタイルの冷たさも忘れるほど、体中が火照る。
舌が動かされるたびに、ぐちぐちと音が聞こえて。
お湯の溜まる音とは別に、やけにはっきりと耳に届いた。
足を広げるのも、そんな場所を見られるのも、こんな声を上げるのも。
恥ずかしいんだ、本当は。
それなのに、見て欲しいとも思うのは、どうしてだろう。
死にたいほど恥ずかしい格好をさせられて、淫乱によがる姿を見られて。
お前が嬉しそうな顔をするから。
俺に欲望を叩きつけてくれるから。
俺の身体で、お前も気持ち良いと感じてくれるから。
きっとそれが、嬉しいんだ。
舌が抜かれて、膝を下ろされた。
「ジェイド。ここ、ふやけたくらいじゃ済まない感じなんだけどな」
「ひぁっあ!」
2本の指がいきなり突き入れられて、一気に根元まで食い込んだ。
「あ…あ、……ぁ」
「いつもはもう少し、時間かかるだろ?」
こんな時ばっかり、こいつは意地悪だ。
自分の指じゃもどかしくて、滅茶苦茶に掻きまわしたのが仇になった。
「なぁ、自分でした?」
「や…ぁ、……そんな、事…」
「それじゃ、誰かにしてもらったとしか思えない」
俺の中を乱暴に苛みながら、顔が近付く。
その目は真剣で。
「本気…で、…言って」
「お前の身体の事なら、俺が一番良く知ってる」
そう言って、顔が首筋に降りた。
「あっ…ぁ」
「どこが感じるかとか、どれくらいで限界になるかとか」
首筋を滑る唇と舌が、吹きかかる熱い息が。背筋をぞくりとさせた。
広げられながら指が引き抜かれて、間髪入れずに3本に増えた指先が俺を突き上げた。
「ああぁ!」
「どれくらいで、ここが緩むか、とか」
「い、いやっ、いや!」
別々に動く指が俺の中を広げて、触れてもらえない熱が解放を求めて止まない。
じっと俺を見下ろす男は、身体の中だけを苛んで。
それ以外に触れてくれようとしない。
「ジェイド、俺以外と…」
「ウォ…っル」
腕を伸ばせば、なすがままに抱きつかせてくれる。
湯気で湿った所為で埃の匂いのきつくなった髪は、それでも愛しくて。
「お前じゃっ、なきゃ、駄目だ。……自分でだって、…駄目」
「ジェイ…」
「会いたかった、寂しかったっ」
泣きそうなほどに、お前だけが欲しかった。
流れた涙を拭うような口付けは、優しくて。また涙が溢れた。
「ウォルサード。欲しい、挿れて。…イかせてっ」
泣き声は、自分で聞く分には聞き苦しい。
あぁ、それでも。
お前が相手だから、こんな声も出るんだ。
優しい口付けと共に、指が引き抜かれて。
改めて広げるように膝を持ち上げられても、恥ずかしさなんか無く。
やってくる熱への期待に、胸が高鳴る。
「あ、あぁ!あっ」
欲しくて仕方の無かった物が、俺の身体を開きながら奥へと進む。
よっぽど、飢えてた。
絶対にそう。
触れているその場所が、脈打っているのが自分でもわかる。
きっとあの襞が、吸い付くみたいにぴったりと咥え込んでいるんだ。
俺の中を進む、その形も、筋の一つまで。
わかるほど敏感に、熱を持ったその場所が感じている。
「そんなに、欲しかった?……すごいよ、中」
「馬…鹿、言わな…ぁ」
一番奥まで来たそれが、一瞬脈打った気がした。
ゆっくりと動かされる腰がもどかしくて。
いつもは慣れるまで待ってくれる動きが、今はじれったい。
「もっと、う…ごい、て。……も、我慢できな…」
「挿れたばっかりなのに、早いよ」
「だ…って、足りな…ぁ、い」
浴槽から溢れ出したお湯が、俺の背中にじんわりと広がる。
揺すられるたびに水音が頭の後ろからして、接合した場所から粘着質な音が響く。
「あっ、あ!…いっ、……あぁん!」
早くなる動きに、自然に腰が揺れた。
ここ暫く、どころじゃない。
会わなくなって10日もしないうちに欲しくなった物に貫かれて。
もっとそれを感じたくて。
いつも以上に、きっと、お前を絡め取っている。
中を擦られてこんなに感じて。
お前に広げられるだけでも、きっと気持ち良い。
絶望的に、いやらしい身体だな。
指の1本ですら、イきそうになるくらい感じる。
けれどこんな風にしたのは、全部お前なんだから。
お前が望むのなら、俺はいくらでも。
進んで身体を広げるだろうけれど。
「あ、…ウォルっ。……イかせ、て。も、…駄目…ぇ」
水音が煩い。
身体中どこもかしこも熱くて。
抱きついている、ウォルサードの体温も熱くて。
のぼせそうだ。脳が溶ける。
「ジェイド。…俺も、寂しかった」
その言葉に喜ぶ暇も無く、ウォルの手が俺の意識を熱ごと奪い去る。
「ああぁーーーー!」
絶叫も、たまに上げると気分が良いと。
そう思わないか?



一足先に身体の中も外も洗われて。
この男はいつだってそうだ。
中に出した物はきっちり掻き出す。
おかげで、自分で後始末なんかした事は無いが。
そんな時まで良く見えるほど足を広げる事は無いと思うんだが。
掻き出す以上に無駄に動く指先に、また勃ちそうになって。
頭をはたくと言うよりは殴って浴槽に逃げた。
しかも、あれだ。
この男はまた。
挿れたままで抜かないから、2回もする羽目になったんだ。
お湯を止めなきゃと言うのに、繋がったまま蛇口に腕を伸ばして。
入ったままだと言うのに身体を反転させられて。
俺は浴槽にしがみ付きながら、後ろからされるなんて…。
突かれるたびに波紋が広がるとはいえ。
水面に映る、悦楽に歪んだ自分の顔など見たくなかったぞ。
久しぶりに味わった硬さが、まだ身体の中に残っているような感じがして。
熱いお湯の中で、そこは未だにじくじくと疼いている。
「なんか、めちゃくちゃ久しぶりに積極的だったよなぁ…」
そんな事を言いながら、頭を洗って泡を流し落としている。
だるい身体を湯につけながら、水滴の落ちる金髪を睨みつけた。
「いつもは消極的だと?」
「いや、なんかいつもは、仕方なく付き合ってくれてるみたいな感じだったからさ」
濡れた金髪をかき上げながらこちらを向く。
まぁな。そんな風にはしていたさ。
毎回毎回大喜びしていたら、俺は毎日寝込むしかなくなるじゃないか。
「日ごろはつまらん相手で悪かったな」
「そうじゃないって。…ちょっと今日は、嬉しかったな。って」
青い目が優しく微笑む。
畜生。
終わった後にお前がそんな顔をするから、俺がこんな身体になるんじゃないか。
「それに、普段から最終的には悦んでくれてるのは知ってるしね」
「……………」
否定しても多分、説得力は無い。
苦々しいのはそれが事実だって事だ。
顔が熱くなるのは、……のぼせたって言い訳もきかないか。
湯船につかるつもりらしいウォルサードと入れ替わろうと、立ち上がると腰を抱かれた。
「な!?」
「いやいやいや。まぁ待て」
そのまま派手な水音を立てて、浴槽にしゃがみこむように落ちる。
大量に溢れ出たお湯が、床に広がって浴室に湯気が満ちた。
バランスも取れずに、後ろから抱きすくめるウォルの胸に背中を預けて。
「なにを…」
「せっかくだから、一緒に暖まろう」
「のぼせるわ!」
抗議した所で、抱きしめる腕を外す腕力なんか俺には無い。
後ろから首筋に懐いてくる頭が、髪がくすぐったい。
「ウォル、……うわっ!」
いきなり膝を持ち上げられて、腰が浮く。
頭が沈みそうになるのを、浴槽の縁に掴まって持ちこたえた。
「な、何だ、何?」
この格好は、なんだ?
嫌な予感がするのは気のせいか?
高く上げられた膝は広げられて、そのまま両方の浴槽の縁にかけられた。
浮力で浮かび上がる身体は不安定で、必死に縁にしがみ付いても背中が沈みそうになる。
「溺れさせる気か!」
「あぁ、大丈夫」
背中を抱き寄せられて、少しだけ安定する。
安心していると、その手が胸をまさぐって。
「やっ、やめ!…まだやる気か!?」
「だって、今日のお前。あれくらいで終わらせるのが勿体無い」
「勿体無いとかじゃ、うぁ!」
突起を摘まれて捏ねられて。
暴れるたびにお湯がまた大量に溢れ出して、バシャバシャと煩い。
「近所…迷惑」
「お前ん家は壁が厚いから大丈夫だろ?」
「そんな問題じゃ…っあ」
自由が欲しくて膝を動かそうとしても、浮力も手伝ってか思うように上がらない。
少し上げられたと思っても、今度は頭が沈みそうになって。どうにも出来ない。
閉じられもしないし、動かせない。
目の前のお湯の中で自分の熱がまた勃ち上がってくるのを、どうしようもなく見ていた。
「お前、んっ。会いに、来るのも…しんどいとか、…言って」
「実物を前にしたら疲れなんか吹き飛んだ」
「馬鹿…ぁ、止め、……あっ」
「湯船の中でってのは、初めてだなぁ」
「なに、のんきなっ、あっ、あ!」
後始末と称して二人で風呂に入って、そのまま……。
と言うのは、確かに過去にあったが。
湯船の中でまでするな。
ただでさえもう、余韻も何もかも残っていたのに。
まだ、挿れられた物の形まで記憶しているのに。
首筋を這う舌先と、胸に与えられる刺激だけで。
俺の身体は取り返しのつかないほどの熱に侵される。
「やぁ、駄目…ぇ、止め…」
「こっちは、でも。続けてくれって言ってないか?」
「あくっ、ぅん」
お湯の中で掴まれたそれは、確かにもう何の弾力も無いくらいに硬くて。
本当に俺の身体の事なら何でも知っているというのは、嘘じゃないらしいのが腹が立つ。
扱かれるたびに身体は不安定に揺れて、まるで自分から腰を振っているみたいに。
後ろから抱きすくめるみたいに、ウォルサードの両手が俺の脚の間でお湯に細波を立てる。
足は動かせなくて、縁に掴まる手も放す事が出来ない。
片方の手が、閉じる事の出来ないその中心を下りて。
お湯と一緒に、俺の中へと。
「い、や。…お湯、が…ぁ」
「お前の中の方が、熱いよ」
解す必要も、もう無いくらいのそこに。
悪戯に水分を与えて。
きっと楽しんでるんだ、こいつは。
「やだ、いや…ぁ。……ウォル」
「その声、ずっと聞きたかった」
余裕ぶちかまして耳元で囁く男が憎い。
俺の中に入れば、お前だって切羽詰った声の一つも上げるのに!
「ウォル、……あぁ、ん」
緩すぎる手の動きがもどかしい。
差し込まれた指先も、中を擦るよりも入り口を広げる事が目的のようで。
啼かされてばかり、こうやって、焦らされてばかり。
「……いじ…わる」
指が中から去って、絡まっていた指が離れた。
腰を抱き寄せられて。
やっと貰える。
と、思って腹立たしくなった。
そうだ、欲しいんだ。
いくらでも。
与えてくれるなら、何度だって。
腰を引き寄せられながら、奥深くまでせり上がる圧迫感。
手を放されても、もう身体が浮かばないほどに。
きっちりと繋がって。
「熱ぅ…い」
「ジェイドも、さっきより、…熱い」
あぁ、もう。のぼせてる。
お湯に浸かりすぎだ。
繋がった場所は身体を包むお湯よりも熱くて。
そこから全身が溶けていきそうになる。
「あ…んっ、やっ……あぁ」
下から突き上げられるたびに浮かび上がる腰を押さえつけられて。
また沈められながら深くまで貫かれる。
浮力と抵抗でままなら無い動きが、どうしてもゆっくりとした物になって。
「や、…ウォル。いや……ぁ、こ…んな」
「ん、……ちょっと、良い眺めなんだけど…な」
頭の横から、ウォルサードの声がする。
浮き沈みするたびに水面から突き出す俺の先端でも見ていたんだろう。
のぼせて朦朧となった頭では、そんな事も、もうどうでも良く感じる。
何も考えられないのは、のぼせているばかりじゃなくて。
俺の中を行き来する、男の熱の所為もある。
浴槽の縁に引っ掛けられていた膝が持ち上げられて。
そのまま抱きかかえるように腰を合わせられた。
「あっ、あぁ!」
密着させたまま揺すられて、それ以上奥まで行けないほど入り込んだ塊が。
俺の敏感な箇所を幾度となく擦り上げた。
解放された足は力無く浴槽の中で揺れて。
浮いては沈む身体が、更なる刺激を求めて震えた。
腰が掴まれて、立ち上がるウォルサードに引っ張り上げられた。
つんのめるように浴槽の縁に掴まって。
腰だけ高く上げたみたいな格好で。
後ろからされるのは、本当に犯されているみたいで。
自由に動く腰が、自分から揺れるから。
真正面から抱き合っている時よりも、深くまで抉られて。
もう何もかもどうでも良いみたいに。
俺に快楽を与えてくれる熱に、むしゃぶりつく様にように腰を突き出した。



どんなに恥ずかしい格好をさせられても良いと思っていた。
滅茶苦茶になるくらいにして欲しいと思っていた。
けれど。
駄目だ、この男。
許していると、俺が壊れるまで放してくれないんだ。
体力の差を、いい加減に自覚してくれないか?
殺す気か。
まぁ、あれだ。
バスタブの底は緩い曲線で、足場が無くて踏ん張りがきかないから。
滑って大変あぶないと言うのは、良い教訓になったろう。
だから俺を殺す前に止めろ。
世の中には牛乳風呂なるものもあるらしいが。
白濁したお湯を湛える風呂なんぞ、もう見たくも無い。
前からだったり後ろからだったり。
果てはシャワーの管に足を引っ掛けられたり。
そりゃ、俺もお前が欲しかったし、抱いて欲しかったよ。
最初の数回はなんだかんだで嬉しかったさ。
だがな。
動けなくなるまで、風呂のお湯が冷めるまで、ってのは、どうだ?
俺が抵抗しないのは、抵抗するだけの体力がもう無くなっていたからだと気付け。



本気で動けなくなった身体は、きちんと温めなおされてちゃんと拭かれて。
抱きかかえられて運び込まれた寝台で、裸のまま抱き合う。
だるくて死にそうなのに、久しぶりの一人じゃない寝床が。
穏やかに睡魔を引き寄せるようで。
俺を抱く腕が、温かくて心地良い。
新しい傷跡が幾つも増えている。明日か、明後日。
起きられるようになったら、癒しでも施してやろう。
早いうちに癒せば、それほど跡も残らずにすむ。
今回の壁業務で付いたのよりも、古い傷跡が幾つも残る。
そのいくつかは、俺を守って出来た物だと知っている。
やせ我慢するから、こんな跡が残るんだ。
胸に頬を擦り寄せると、大きな手が頭を撫でてくれた。
「ジェイド」
囁きと額に触れるささやかな口付け。
明日は無理だから、明後日からは日常に戻ろう。
こいつが隣に、当たり前のようにいてくれる。
幸せな日常に。
「ジェイドもやっぱり、自分でしてたんだな…」
一気に脳が覚醒した。
動かないと思っていた腕は、寝台の脇の物入れの上に置いてあるバイブルを引っつかんで。
ボコボコに殴って寝台から蹴落としてやった。
これが火事場の馬鹿力と言うやつなのかもしれない。
過剰精錬した上に、スケルワーカーカードを2枚仕込んだ聖書は伊達じゃないぞ。
「ジェイド〜〜」
情け無い声が床からしたが、知った事か。
「今日はお前は、床!」
「そんなぁ、お前だってさっきまで、あんな…」
「知らん!」
夜具を身体に巻きつけて、九の字に折ったような変な寝方で寝台を占領する。
上がってくるな。
顔が熱い。
暗くて見えないとわかっていても、見られたくない時はあるんだ。
あんなに、…と。けれど。
ウォルサードの手でなら、どんなに乱れたって構わない。
目で確かめながら弄られて、広げられるのだって別に良いんだ。
だけど、自分でなんて。
そんな事を認めるくらいなら舌噛んで死んでやる。
「ジェイド」
夜具の上から俺の肩に軽く手が置かれて、髪に優しく口付けが落ちる。
「今度する時は見せて」
もう一度バイブルで殴って床に沈めてやった。
日常に戻るのは明後日からと勝手に決めた。
だからそれまでは、隣に立つな。



翌日、シーフの少女に今日は休むと断りを入れた。
一人で出来るところで頑張るらしい。
無茶をしないと良いが。
昼過ぎにギルドマスターから、どうかしたのかと心配そうな耳打ちが届く。

「文句はウォルサードに言ってくれ」
―――…………………………あぁ、……お大事に、ねー…。

それだけで会話の済む彼女が好きだ。
あぁ、そうだ。
もしシーフのあの娘が修行を急ぎたいのなら。
ウォルサードにも手伝わせよう。
どうせ壁をしていただけなら、俺との冒険者の格は開いていないはずだ。
俺だって、ほとんど格の合わない相手の支援だけで。何も変わってない。
そしてぼこぼこ殴られていると良い。
当のウォルには風呂場の掃除を言いつけた。
扉の向こうから聞こえてくる水音を聞きながら。
今日は惰眠を貪ろう。
お前は俺の代わりに働いて行け。
キスぐらいなら、してやるから。
ウォル。
離れていて良い事なんて、一つも無い。
だから、もう離れないで。
手の届く所にいてくれ。
夢現の間に髪や頬に触れる手に安心して。
深くなる眠りの中で思う。
今夜は、自分の下宿に帰させよう。
明日になったら。
こんな隈の浮いていそうな顔じゃなくて。
いつも通りの俺で、お前に会うんだ。
ウォルサード。
愛してるよ。

2004.2.25

あとがきっぽいもの

フェイヨンの話を書いている途中に思いついて、一気に書き上げてしまった物。
どこら辺で思いついたかは、あっちを読んでくだされば何となくわかるのではないかとw
実は受け視点でエロ書いたのは初めてなんですが、思ったより楽に書けました。
経験済みで慣れてる男だったから楽だったのかもなぁ、と。
気持ち入っちゃうと痛いのは書きたくないので;
相変わらず落ちが弱いなぁとか、終わらせるのが下手でもう・・・;
ジェイドの一人エッチネタが書きたかっただけなのに、それだけじゃ何だから、と。
ウォルサードも出したらその後の方が長くなってしまいました;

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