スペランツァの鍛冶

4日かけて集めた鉱石と鋭い鱗が消費されるのに、要した時間はほんのわずかだった。



プロンテラの大聖堂から少し外れた木立の下、モロクとは違う柔らかい日差しを浴びながら、鉄を打つ音に続く破壊音を聞く。
槌を振り上げている当の本人はしれっとしているが、俺はがっくりと地面に懐いていた。
「お前が落ち込んでどうする」
よく見知ったプリーストが、こっちを見下ろしながら呆れて言う。
「………4日、……4日もかけて集めた材料が瞬殺」
「私の望む姿になれないのなら、鉱石たちも微塵と消えて幸せだろう」
「少しは落ち込めーーーーーーーーーー!!!」
ギルドの先輩にもあたる製造ブラックスミスに怒鳴り散らしても、この落ち込みというか無常感というかなんつーか切ない気持ちは晴れなかった。



属性ソードメイスの製造を依頼されたが、保険で余分に材料が欲しい。
件の製造ブラックスミスにそう言われて、廃鉱と海底洞窟に篭る事4日。
ちなみに、少しでも経験が積めるならと、依頼を受けた本人の製造BSも連れて歩いた四日間だった。
本気製造の奴は、戦闘に関してはまったく役に立たない。何しろ戦闘系の技は一切習得していないという徹底ぶりだ。
そのくせ攻撃は必ず当てるから逆に厄介で。運が良いのか敵の攻撃はよく避けていたが、荷物持ちしかしてくれない奴を守りつつ狩りというのは正直しんどかった…。
ようやく手持ちの材料と合わせて二本分の材料が溜まったところで、やっと材料集め終了のお許しが出た。
いつもなら相方のプリーストにギルドの溜り場になっているモロクまで来てもらうのだが、向こうのギルドで製造する現場を見たことが無い子がいるという話に、俺と製造鍛冶屋スペランツァの二人でプロンテラまでやってきたのだ。
結果は、四連敗。
初めて製造する現場に居合わせたアコライトとシーフの二人の女の子は、たとえそれでも見学できて楽しかったと言ってくれたが。
こういう初々しい見物人がいる時くらい成功してくれよ。
俺の方がなんだか申し訳ない気分になる…。
「武器を造るって難しいんですね…」
とか、アコライトの子が言ってくれているが。
スペランツァの格を考えれば、そろそろ難しいものでも無いはずだ。
ここのところ失敗する事の方が少なくなっていたんだが、こーゆー時に狙ったように全部折るたぁどういうこった。
「属性を入れればそれだけで格段に難しくなるものでな。そこに星を二つ入れれば、まぁこんなものだ」
「入れるなーーーーーーーーーー!!!」
「そういう依頼だ、仕方あるまい」
スペランツァはいけしゃあしゃあと言い放った。
「最初の一本は験かつぎに超強いスタナーを生贄として捧げておいたんだが、残念だ」
「無駄遣いするなーーーーーーーーーー!!!」
こんなのと同郷で、しかもギルド立ち上げて他に人が来るまで、二人で頑張ってたマスターを改めて尊敬するよ…。
「それじゃ、またしばらく鉱石集めか?」
「いや、依頼主には失敗したと伝えるからな。向こうの材料が集まるまではこちらで急ぐ事もあるまい」
肩で息をしている俺に向かって言ったプリーストの言葉に、スペースが答える。
プリースト、ジェイドはふぅん、と気のない風に頷いて。一度はスペースに向けた視線を俺に戻した。
「どうせまた必要になるんだろう。鱗集めにでも行くか?」
にっこりと言うよりはにやりに見える笑顔で言う。
「ついでだから俺のために半漁人から唇も剥ぎ取れ」
「海底神殿まで行くのかよ!?」
「4階程度じゃ温いだろう?」
今度は完全に、にやりとした笑い。
そういえば地味にシルクハットの材料集めてたっけ。
鉱石集めでしばらく会えなかったから、機嫌が悪くなってないかと心配だったけど。
どうやら、今はそんな事は無いらしい。
しばらく使ってなかったから、風斧は倉庫に取りに行かないとな。ジェイドがいない時は鈍器装備なんだ、俺は。
なんせ避けないし被弾しまくるから、防御上げないとさ。
久しぶりに二人で出かけられる。場所なんかどこでも良いんだ。俺は倉庫から取り出す装備を考えながらワクワクしてきた。
「あ、スペースさんも一緒にどうですか?」
「ふ………っ」
二人で行くんじゃないのかよ!?
と、叫びかけて言葉を飲み込んだ。プリーストの顔は意地悪そーな楽しそーな笑顔。
スペースは、構わないのか?と聞いていた。
断れぇぇぇぇぇぇぇ!!!
「アコ時代に使っていた風メイスがあるし、一緒に殴りましょう」
「ああ、それなら未精錬で悪いが、ウィンドソードメイスの在庫があるから貸そう」
「良いんですか?ありがとうございます」
どうやら多数決で三人で向かう事は決定事項になったようだ……。
格は近いから公平パーティーは組める。たいした経験にはならなくても、純製造のスペースには無駄にはならない。色々と理にかなってはいるんだろうがだがしかし!
せっかく久しぶりに二人きりになれると……………。
ちょっといじけて膝でも抱えようかと思っていると、ジェイドがすっと顔を寄せてきた。
「古代魚の唇を10個以上剥ぎ取ってくれたら、後でご褒美でも用意するよ」
思わず、まじまじと顔を見つめた。何か含みを持たせたように微笑んで、すいと離れる。
その笑いも、言葉の意味も。すぐに、理解できた。
ああ、餌に釣られているのはよくわかってるさ。
それでも、再び上昇した上に浮かれ気味になりつつある心は抑えられない。
単純だなぁ、俺って。



古代魚の唇は9個しか集められなかったが、努力賞という事でご褒美はいただいた。
ご褒美の内容は勿体無いから教えない。
ただ、久しぶりに潜り込んだジェイドの寝台は、二人で眠るには狭かったが幸せは実感できた。…とだけ。

2006.3.4

あとがきっぽいもの

スペランツァさんはこんな人。
と、ゆー話です;

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