ウォルサードとカリン

「久しぶりに骨休めできたわ〜」
長い赤毛を後ろで一つに結わえたブラックスミスが、機嫌よさそうに腕を伸ばしながら言った。
女性としては長身の彼女に、モロクの日差しはよく似合っている。
「あー、そりゃ良かったなー」
答えたのはしゃがみこんでいる金髪のブラックスミス。日差しを避けるようにヤシの木陰に座る彼を、彼女は首をかしげて見た。
「なーに、スペースと4日も行動しといてその余裕しゃくしゃくな顔は」
「冗談、余裕なんかもう無い」
慌てて金髪の頭をぶんぶんと振った。
「もうお役御免だし、しばらくは遠慮したいわ……」
「ちったぁあたしの苦労を思い知ったかしら!?」
金髪の前髪にびしっと指を突きつけて、彼女は言った。
「……いつもご苦労様です」
「よろしい」
地面に両手をつけて、へへーとへりくだるブラックスミスに、彼女はえっへんと胸を張った。



「だから、荷物持ちくらいにしか使えないって言っておいたでしょ?」
「そうなんだけどさー、まさか白ポだけじゃなくて青ポまで飲む羽目になるとは思わなかったよ」
場所は変わらず、ヤシの木陰に二人向かい合わせに座りながら会話は続いている。
ここは二人が所属する、商人系の職業ばかりで構成されるギルドの溜り場だった。
赤毛の女性の名前はカリン。金髪のブラックスミスはウォルサード。戦う型は違うが同じ戦闘特化の道を選んだ二人は、ギルド内でも気の合う良い友人同士だった。
とにかく頑丈なのがとりえのウォルサードと違って、彼女は身のこなしの軽さに重点を置いた鍛え方をしている。
格の差で勝っている分、ウォルサードの方が一撃の重さがあったが、彼女の手数はそれを上回る攻撃力となっていた。
戦闘に秀でている彼女は、ギルド内で公平の組める製造ブラックスミスと狩りに行くことが多い。武器を造る事を極めようとすれば、己一人で戦う事が難しいからだ。
現在彼女が主に組んでいる相手は、冒険者の格も88になろうという製造ブラックスミスだった。
ギルドマスターの昔からの馴染みにして、ギルド創設当初からのメンバーだ。一応、二人いる副マスターのうちの一人でもある。
「なんつーか、アドレナリンラッシュすら覚えてねぇって、……徹底してるよなぁ」
「だから、ほんっとーに、使えないんだってばっ」
よほど鬱憤を溜め込んでいるらしい。力一杯、使えない事をアピールしていた。
「あー、いっそ結婚でもしたらどうだ?そうしたら少しは使い道があるかもしれないぞ」
「じょーっだんじゃないわ、お断りよ」
一刀両断だった。
「人生そのものまであの男に捧げるなんて、真っ平御免よ」
年上の先輩に対して容赦ない言い様をする。
この場に本人がいないから気安くこき下ろしているわけではない。本人を前にしても彼女はこんなものだ。
「そこまで嫌か」
苦笑いしつつ、それでも可笑しそうに言うウォルサードを、カリンは軽く一睨みした。
「そりゃあね、武器を造る腕は認めるわよ。でもそれ以外に何ができるの?職人として尊敬はしてるし、スペースの修行の助けになるなら喜んで協力もするけど。それ以上踏み込む気もないし踏み込まれるのも嫌っ」
たまーに関わるだけのウォルサードと違って、かなり長い時間をスペランツァと過ごすカリンには、言葉では言い表せない複雑な心境というものがあるらしい。
まあ、結婚だのなんだの。プライベートでまで一緒にいたくない。という意気込みはよく伝わってきた。
「観賞用くらいにはなりそうなんだがなぁ………」
「………確かにね、顔だけっ、は良いわよ」
顔だけ、の部分をいやに強調してカリンは嫌そうな顔をしながら言った。
スペランツァは理知的で整った容貌をしている。ブラックスミスを生業にしているよりも、ウィザードやセージの衣装が似合いそうな、そんな顔つきなのだ。
製造以外の事に対する知識も豊富で、それが見た目以上に魔法職が似合いそうだと思わせていた。年長者だからという理由だけでなく、その知識ゆえに一部には尊敬されてもいる。
怜悧な美形。と言って良い。
冷たくも見える眼差しは深い藍色の前髪に片方が隠され、それがいっそうスペランツァを神秘的に見せた。
戦うために鍛える事をしていない、180cmを越える長身は細身で。そのくせ槌を振るうための体力は維持しているだけに、均整の取れた身体つきをしている。
黙って立っていればなかなかの美観を形成した。
そう、口さえ開かなければ、だ。
「何がむかつくって、あいつと一緒にいるとまず奴に辻が飛ぶのよ!」
腹立たしい事実を思い出したと言わんばかりにカリンが吼えた。
「主に女プリ!男だってどーしてあいつが先に辻入れる対象になるわけ!?頑張ってるのはあたしじゃない!!!あの野郎はただ座ってるだけなのよーーーーーーー!!!!!」
思わず立ち上がったカリンの目の前から、しゃがんだままジリジリと後ろに後退しつつ。ああこれか、とウォルサードは思った。
「お、落ち着け……」
「………ふ、……気が済んだわ」
なんだか怖い笑顔を浮かべながら、カリンは漢らしく言い放って座りなおす。
「ま、そりゃー確かに、腹立つわなぁ……」
一度開けた距離を戻しても良いものかどうか測りかねながら、ウォルサードはとりあえず労わりの言葉を述べようとした。
「良いの、それぐらいならまだ良いの」
「……へ?」
カリンはニコニコしはじめているが、笑顔の深さに比例して殺気が滲み出てきているような気がした。
「カップルだの夫婦者扱いした奴、次に会ったら殺す!!!」
「落ち着けぇぇぇーーーーーーー!!!!!」
愛用の+8ダブルボーンドツーハンドアクスを握り締めながら再び立ち上がろうとするカリンを、ウォルサードは慌てて押さえ込んだ。
ちなみに、廃鉱に篭る事の多いこのギルドのメンバーは、全員が中型特化武器を持参している……。
「落ち着け、カリン。とりあえず落ち着け。……えぇと、お前の好みってどんなのだ?」
「あたしの、…好み?」
とりあえず斧を手放し、ふと考える。
「守ってあげたくなるような可愛い男の子」
とたん、手を組んで瞳をキラキラさせた。
いたっけかなぁ、そんなの……。
あさっての方向を見つめるカリンを見上げながら、ウォルサードは心当たりを思い浮かべようとして諦めた。
いねぇよ、そんなん。
この娘の幸せはいつ訪れるのだろう?
遠そうだな、と内心ため息をついて。まあ頑張れ、と年頃の同僚を応援しておいた。

2006.3.4

あとがきっぽいもの

スペランツァさんはこんな人第2弾。
未登場メンバーの紹介シリーズになるやもしれず・・・。


とか書いてましたが、もうすでにWeb拍手更新する根性がありません・・・(10.6.29追記

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