先輩と後輩

うららかな昼下がり。
大聖堂の屋根は日差しを受けてキラキラと光り、街路樹は緑の葉を風にゆらしている。
日の光りが白い街路にくっきりと影を落とし、日向ぼっこをするにも昼寝をするのにも良い陽気だった。
そんな大聖堂前。
木陰にうずくまる影が一つ。
膝を抱えたまま横になったような姿勢で、頭が木の向こうに隠れる位置で横たわる。
中途半端に見えている紫の布は、アサシンのものだった。
真上に近い位置から降り注ぐ日光の作る影が、その木のたもとだけ濃いような錯覚を覚える。
「うっとうしい」
黒髪のプリーストが、きっぱり、と言った。
しかし、うずくまるアサシンはピクリとも動かない。
「まぁ、しばらくそっとしておいてあげましょうよ」
赤毛の女騎士が、なぜか笑いを噛み殺しながら言った。
プリーストが、ふん、と鼻を鳴らす。
「ある意味で自業自得だってのに、周りの空気まで重くされちゃかなわない」
「まぁまぁ」
怒るというよりも半ば呆れているような、冷たい視線をプリーストがアサシンに向ける。
女騎士は本気で笑いを堪えながらそれを制した。
「傷ついてる時くらいキリヤに優しくしてあげなさいよ、ジェイド」
プリーストは肩をすくめただけで返事を終わらせた。



「ただいまー!」
「戻りました」
元気な少女達の声が、溜り場に響く。
その時になってやっと、木陰のアサシン――キリヤがぴくりと動いた。
「おかえりなさーい」
そんな陰の気配は頭から無視して、女騎士ミレスは自分のギルドに所属する歳若い後輩達を迎える。
帰ってきたのはアコライトのアテラと、つい昨日までシーフだった少女。
「転職後の狩りはどうだったチロル?」
「はい! ローグって楽しいです!!」
満面の笑みで答える。
彼女が、キリヤが落ち込んでいる原因だった。
まあ、ようするに。
可愛がっていたシーフの後輩はアサシンになるものだと思い込んでいただけだ。
衝撃を受けるキリヤに対して、ジェイドは「馬鹿か」と一言で済ませていたが。
「楽しかったですよー。みるみるスキル覚えていって、叩きながら一杯盗んでたよね」
「えへへ、なんかね、シーフの頃より体が軽くなった感じ」
と、帰還した二人は楽しげに報告している。
日当たりでにぎやかに談笑する一団とは裏腹に、キリヤは木陰で丸まりながら地面にのの字を書いていた。
「そうだ、先輩は?」
チロルが金色の頭をめぐらせて先輩と呼ぶ相手を探す。
もちろんキリヤの事なのだが、ちょうどミレスの背後に位置していて彼女からは見えなかった。
「キリヤー」
ミレスが背後を振り返って呼ぶが、どうやら動く気になれないらしい。
ジェイドが溜め息を一つ吐いて立ち上がり、ツカツカと歩み寄ると無言でキリヤの尻を蹴飛ばした。
「だぁ!」
「いい加減にしろ、ピラミッドの3階まで連れてって放置するぞ貴様」
ミミックがトラウマ気味のキリヤは弾かれたように立ち上がった。
その場所に数多く生息している事を知っているらしい。
「あ、先輩!」
チロルが立ち上がって小走りに近づく。
「これ貰ってください!」
そう言って差し出した両手に、1枚のカードが握られていた。
思わず手を出そうとし、その表面に描かれている物にキリヤは目をむく。
「ちょ! これっ、ソル…!?」
「今日アテラちゃんと3階に行く途中でぽろっと出ちゃって……」
ソルジャースケルトンカード。
彼女達の行き先はフェイヨンダンジョン3階だった。
確かにローグのチロルには必要無い物であったが、クリティカル型のキリヤには何枚あっても困らないカードだ。
「ぽろっと……、ぽろっとって……」
俺がどれだけピラとFDに篭って……。とかぶつぶつ言っている。
「アテラちゃんと相談して先輩に貰ってもらおうって決めたんです、受け取ってください」
真摯な瞳でそう言われ、はっと我に返る。
確かに彼女には必要のないカードかもしれないが。
「俺と違って盾とかも揃えないといけないんだから、駄目だよちゃんと売ってお金にしないと!」
そしてそのカードを買い取る資金を持ち合わせていないキリヤだった。
正直喉から手が出るほど欲しいカードだったが、ここは先輩の面目というか威厳と言うか!!
と力んだ所で、ジェイドが後頭部を良い角度ではたいた。
「貰っておけ。お前、自力で出すとか言い続けてたら一生ダブルクリティカルジュルのままだぞ」
「痛いし酷い!」
「一杯色んな事教えて貰ったし、お礼したかったんです。お願いします!」
と、チロルは頭を下げる。
はっきり言って。
今まで頭を下げてお願いした事はあっても、お願いされた事は無いキリヤだった。
逆に焦ってしまい手が出ない。
「……………」
ジェイドは固まりつつあるキリヤの手を掴むと、無言でカードを握らせた。
良いタイミングでチロルも手を放す。
「わあ!?」
「あらおめでとう〜、これで三枚揃ったわね〜」
一部始終を傍観していたミレスが祝福の言葉を送る。
「使ってもらえたらあたしもアテラちゃんも嬉しいですー」
「え、いや、……えぇーーー!?」
自力で揃えるのが目標だったのだ。
これは、何か違わないだろうか?
思わず手に入ってしまったカードをまじまじと凝視していると、ジェイドが耳元でそっと囁いた。
「きちんと挿して使え。お前のクリティカル発動率は把握してるからな」
後輩からの戴き物として大事に保管しておく事も許されないらしい。
血の気の引いた顔でキリヤはこくこくと頷いた。
嬉しそうに微笑んでいたチロルが、はたっと、何か思い出したように表情を改めた。
「でも先輩、そろそろ特化揃えた方がいいんじゃないですか」
「……………うん、そーだね」
とても真っ当な正論に、キリヤは遠い気持ちで答える。
「何年先になるかな」
と、ジェイドがキリヤの内心を代弁した。



特化は買おう。
そう心に誓うキリヤだった。

2008.5.29

あとがきっぽいもの

何年も前に「キリヤがかわいそうな話」でリクをもらっていたんですが。
いいのが浮かばなくてずっと放置してたんですよね(^^;
むとさんもラインさんも内容は同じようなリクエストだったので、これ一緒くたでいいですか?(爆
リクエストに答えたというよりも、更新するために書いたような気がしないでもなく;
これ以上人数を増やすと無駄に長くなるので、ウォルはお休みです。
リハビリ品のためにいまひとつ切れのない文章でなんだかな;

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